ビジネス

2020.01.16

「組織にプラスだ」と思われて、初めて人は動き出す

水留浩一 スシローグローバルホールディングス代表取締役社長CEO

「この店、最近どうだ? インバウンドのお客様はどこが多い?」

開店1時間前。撮影のため店舗を訪れたスシローグローバルHD社長の水留浩一は、入ってくるなりエリア課長に声をかけた。エリアで売り上げトップになったと聞くと、「そうか!」とニッコリ。撮影の直前まで即席の1on1ミーティングは続いた。

業績は絶好調だ。2019年9月期は、売り上げ、利益ともに過去最高を更新。新業態開発や新規出店が後押ししたが、既存店売り上げも昨対比107.4%と成長を続けている。

なぜスシローは消費者に支持されるのか。水留は、「お客様にまた来てもらえるように、変化を大事にしている」と戦略を明かす。

「お寿司は伝統のある料理で、変化がなくても成り立ってしまう。ただ、お客様から見ると、変化がないのは退屈。新しい発見や驚きを提供し続けていくことがリピートの肝になる」

たしかにスシローのメニューは斬新だ。名店の有名シェフとコラボしたり、日本では寿司ネタとしてあまり利用されない素材を海外から仕入れて使ったり、期間限定で、常連客を飽きさせない工夫がなされている。

水留が変化を続けて顧客の関心を引きつけることを重視するのは、キャリアを広告業界からスタートさせたことと無関係ではないだろう。28歳で経営コンサルタントに転身した後も、変化を仕掛けるのは得意だった。

「印象に残っているのは、あるテーマパークの案件です。夏休みは放っておいても客が来ますが、1〜2月はどうしても客足が鈍る。ボトムのときに季節の行事をイベント化したり、夜にライトアップをしたり変化をつけて、再来園を促す提案をしました」

トップコンサルタントとして活躍していた水留に転機が訪れたのは41歳のときだ。企業再生支援機構(現・地域経済活性化支援機構)に転職。アサインされたのは、破綻したばかりのJALだった。

再建の指揮を執るのは京セラ創業者の稲盛和夫。伝説の経営者でも、当初は批判的な社員がいて一朝一夕にはいかなかった。その様子を見て、「組織には全体意識があり、『この人がいたほうが組織にプラスだ』と判断されるまでは物事は動かない」と痛感した。

「私も、最初は苦労しました。風向きが変わったのは、国際線を守ってからですね。一時、国際線をすべてやめようという話がありました。しかし、成長に国際線のマーケットは欠かせません。現場の社員たちにも、国際線は花形で、フラッグキャリアと しての思いもあった。僕が撤退を阻止したら、一緒に戦う仲間だとようやく認識してもらえました」
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文=村上 敬 写真=苅部 太郎

この記事は 「Forbes JAPAN 1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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