今月より「世界経済フォーラム」(WEF・本部ジュネーブ)による課題解決を探る「ブログ(Agenda)」を不定期で転載する。
第四次産業革命(4IR)による社会のデジタル化は、多くのメリットと同時に難題ももたらしますが、あまり言及されることのない重要なメリットがひとつあります。それは、デジタル化によってさまざまな犯罪を撲滅できる可能性です。この記事では、通常の消費プロセスのために導入されたデジタル化がもたらしたに過ぎない、プラスの効果としての犯罪の減少に焦点を当てます。DNA照合、AIや顔認証を使った自動監視、世界の犯罪データの高度なデジタル交換・分析など、実際に犯罪防止を目的として導入されているデジタル化は対象外とします。
1. デジタル通貨で非合法の送金を根絶
多くの北欧諸国など、金融インフラの大部分が効率的にデジタル化されている国では、現金を持ち歩く人はごくわずか。そのため、使用されている現金の大半は犯罪行為や闇の労働市場からもたらされていると考えて、間違いないでしょう。
ブロックチェーンや暗号通貨が登場したことで、デジタル通貨が社会に直接的なメリットをもたらすことが明らかになりました。次なる発展は、おそらく中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)の導入になりますが、暗号通貨によって証明されたトレーサビリティ(追跡可能性)とプログラマビリティ(プログラムで制御できること)の有効性はCBDCでも保持されるでしょう。
警察は、捜査で携帯電話の追跡機能を使用するのと同様に、CBDCのトレーサビリティ機能を使えば資金の流れを追跡することも可能。その結果、例えば麻薬や盗品の代金の支払いを隠蔽することはできなくなります。
小規模な不正だけでなく、大規模な汚職の隠蔽も困難にします。大型の公共建設プロジェクトからのリベートの追跡のほか、建設プロジェクトに配分された資金が、建設に関連する特定の目的や状況においてのみ使用できるようデジタル通貨をプログラミングすることも可能になります。また、支払いの追跡ができることで、マネーロンダリングを行ったり、タックスヘイブンに資金を隠したり、ホワイトカラー犯罪を働くことも困難になります。
デジタル通貨により、これまで電子決済で経験してきた犯罪の問題はある程度軽減されるでしょう。1980~90年代にキャッシュレスへの移行が始まった当初、犯罪者にはまだ電子マネーを盗む技術がなく、現金が標的だったため、犯罪は減少。ところが、犯罪者が技術的な格差を克服し、オンライン・ストアを攻撃する方法などを習得すると、状況は一転しました。しかし、デジタル・マネーに足跡が残り、プログラムを組み込むことも可能になったら、犯罪に対する障壁が再び高まるでしょう。今後は、犯罪者が再びこの技術格差を埋める方法を見出した場合の対策が課題となります。
2. デジタルIDとデジタル署名で偽造や汚職を防止
国民、企業、政府機関を対象に、政府がデジタルIDとデジタル署名を発行する動きが広がっています。デジタル先進国では、政府がデジタルIDを導入していない国に比べ、金融機関へのハッカー攻撃の件数が少ないことなどが示されています。
従来の紙の文書の場合、簡単なフォトショップの技術さえあれば偽造は可能ですが、デジタル署名された文書で同じことをするのは不可能。デジタル署名された文書は、署名を破壊せずに内容を変更することはできません。そのため後から文書への署名をなかったことにすることはできなくなるし、また、不正アクセスを防ぐために機密扱いにすることもできます。
公務員のデスク上ではなく、自宅や会社のブラウザ経由で文書がデジタル署名されていれば、汚職を行うのはさらに困難になります。こうしたデジタル設定を行っていれば、どの公務員が文書を処理しているか分からなくなるため、賄賂を贈る相手は存在しません。
世界経済フォーラムは、「サプライチェーンへのブロックチェーンの包括的導入・パート2 – デジタルIDの信頼性の高い認証」において、グローバルな取引を行っている企業や政府機関に対し、共有のデジタルのグローバル・トレードID(GTID)の作成を推奨。GTIDは国境を越えたやり取りに対応し、国際取引文書の偽造を防ぎます。