地元の人々が試合のために休日にスタジアムに集まりたくなる。そんなチームが全米各地で増殖し、そこで子供たちがサッカーに触れ合い、やがては国を代表する選手に成長し、悲願のW杯優勝を果たす──。この壮大な実験に必要なものは何か。彼が考えたのは、IT業界での大成功を利活用する「イノベーションの移植」だった。
チームは人口2万人の街の誇りに。
コミュニティを築く“プロダクト”
「オープンソース・サッカー」。クローリーは、キングストン・ストケードFCのチーム運営をそう呼ぶ。プログラミング言語で書かれたソースコードを公開し、誰にでも自由に使ってもらえる「オープンソース」にヒントを得て、IT業界と同じようなエコシステム(生態系)をもたらそうというものだ。
彼はチーム作りの過程を逐一公開していくことに決めた。予算・年間活動計画の策定、選手のトライアウト、サポーター・ボランティアの組織……。その過程や問題点を公にすることが、同じようにチームを作りたい同志の助けになるからである。
なかでも重要だったのが、「活動の収支」を公開したことだ。数字を透明化することで、必要な活動資金がわかり、予算を立てやすくなる。投資すべき分野とコスト削減できる分野を理解して初めて持続可能な組織が成り立つ。
地元の飲食店とサポーターをつなぐために、フォースクエアを役立てるなど、データの活用にも積極的だが、「ITサービスは、所詮はツールにすぎない」と指摘する。
むしろ、重要なのは「誰もが必ず一つはもっている“超能力”をチームとして活かすことだ」と語る。異業種からの参入を促すと、どんな形であれ、変化に寄与できる。異なる要素や視点を取り込むのは、イノベーションにつながりやすい。
「僕は、サッカーの未来を見通せるビジョナリーではない。よく仲間にもからかわれるよ。『おまえがサッカーチームのオーナー?』ってね。でも、いいプレーヤーである必要なんてない。僕が得意なのは、人を巻き込んで、ビジョンをもとにみんなを動かすことだ」
それに、クローリーが創業したフォースクエアとキングストン・ストケードFCは共に、「人を巻き込んでコミュニティを築くための“プロダクト”」だという。
現在はアマチュアだが、早くもペルーやボリビア、オーストラリア、スコットランドのチームとプロ契約を結ぶ選手を輩出している。