サッカー界に「イノベーション」を移植
クローリーが“チーム”を作るのは初めてではない。2003年に位置情報型SNS「Dodgeball(ドッジボール)」を立ち上げた後、05年にグーグルに売却。09年に前出のフォースクエアを創業している。同アプリは、スマートフォンに搭載されている全地球測位システム(GPS)を元にしたモバイルチェックイン機能を使ったSNSで一世を風靡した。現在はアップルやテンセントを顧客にもつ法人向けの位置情報データサービスに軸足を移したが、SNSも「Swarm(スワーム)」や「Foursquare City Guide(フォースクエア・シティガイド)」というアプリで継続しており、月間ユーザー数5,000万人を誇る。
とはいえ、当時CEO(現在は会長)としてIT企業を率いていたクローリーが、なぜサッカーチームなのか。チームへの出資でも買収でもない。“ゼロ”からの立ち上げだ。
いうなれば、自分の仮説を実証するための壮大な「実験」である。彼の考えはこうだ。
「米国男子代表がFIFAワールドカップの舞台でもがいているのを見て、1人のファンとして僕は文句を垂れていた。でも今の代表チームや自分の地元チームに納得できないのなら、まずは自分でチームを作ることで他の人たちを刺激して、米国を裾野から強化していく方法もあると思ったんだ」
米国女子代表が過去4度もW杯優勝を果たしているのに対して、男子代表は10度の出場で1930年には3位に入ったものの、近年は振るわず、2002年日韓大会でのベスト8がやっと。18年のロシア大会は本大会出場を逃している。
クローリーは、最上位リーグである「メジャーリーグサッカー(MLS)」にもその原因がある、と考えている。MLSでは高額の加盟料を取ることでチーム数を絞り、サラリーキャップ制度で選手年俸を抑えつつ、収入を分け合うシステムを採用している。いわゆる「クローズド・モデル」である。バスケットボール(NBA)や野球(MLB)、ホッケー(NHL)、アメリカンフットボール(NFL)など、米国のプロスポーツはおしなべてこの仕組みを取っている。このモデルだと各チームの経営が安定する。
しかしリーグ間の昇格・降格がある「オープン・モデル」とは異なり、下位チーム間での競争力が働きにくい。サッカーは欧州や南米、アフリカ、アジアで最も人気が高い世界最大級のスポーツである。各チームが優れた選手を奪い合う状況下では、否応なく競争力は高まる。仮に、開かれた市場と競争力がサッカー強化の源泉だとするならば、米国は明らかに後れを取っているのだ。
ストケードFCのシャツを着る地元サポーター。日本語版やヘブライ語版のシャツも。