IT起業家がサッカーで大実験!イノベーションの移植で目指す「W杯優勝」

今日のテクノロジー企業は、アイデアやプロダクトで私たちの生活を変えてきた。それはスポーツにも応用できるのか? ある起業家がその難問に挑もうとしている。


すべては、酒の席での他愛のない話から始まった。 

2015年6月3日、米ニューヨーク市ブルックリンのとあるバー。位置情報型SNS「Foursquare(フォースクエア)」共同創業者のデニス・クローリー(43)はビールを手に、所属する草サッカーチームの仲間たちと愚痴を言い合っていた。

──毎週、20代前半のチームにボコボコにされるのはもうウンザリだ。僕らがプロチームと戦えるようになるにはどうすればいいのだろうか?

その2週間後のことだ。彼らはプロ・アマ混合のオープントーナメントの試合を観に出かけた。USオープンカップ4回戦、NASL(当時2部・現在は破綻)のニューヨーク・コスモスは、MLS(1部)に所属するニューヨーク・シティFCをホームに迎えていた。ニューヨーク・コスモスといえば、1970年代に「サッカーの王様」ことペレや、「皇帝」の異名を取るフランツ・ベッケンバウアーがプレーした名門チーム。束ねていたリーグの衰退もあって85年にチームを畳む憂き目に遭ったが、2010年に投資家グループの手によって復活していた。

そのコスモスがPK戦の末に勝利する“ジャイアントキリング(番狂わせ)”を起こしたのだ。コスモスは次の試合、やはりMLSの強豪ニューヨーク・レッドブルに4-1で粉砕されてしまう。だがその夜、ホームの観客1万人はしばし「優勝」という夢に酔いしれた。発炎筒がたかれ、サポーターが歓喜の歌声をあげる。そこには間違いなく、希望があった。

クローリーは、その光景を見て思った。僕らもゼロからチームを作ってみてはどうか──。

それから1年。チーム創設の準備期間を経た2016年5月9日、彼は「ゼロからプロサッカーチームを作ってみようじゃないか」と、米ニューヨーク州ハドソンバレーに拠点を置く「キングストン・ストケードFC」を創設し、NPSL(4部)へ加盟したことを宣言したのだ。

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フォースクエアとストケードFCを両立させるのは「正直、かなりしんどい」(クローリー)が、妻のチェルサ(後方)の理解もあって、週末を中心にチーム作りを進めている。幼い2人の娘はサッカー好きで、「長女が5歳になるまでに、女子チームを作りたい」と語る。
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文=井関庸介 写真=ユアン・バーンズ

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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