クリエイターの本棚


山口氏による美意識本がブレイクして以来、ビジネスにおけるアートの重要性が見直され、世界の有名な美術作品の「解説書」が書店を賑わすようになった。しかし、アート作品が描かれた意図や時代背景の詰め込み勉強をしたからといって、センスは練成されるものではない。

秋元氏は同書の中で「優れたアーティストは、感度のいい野生動物のように時代の変化を肌で感じている。そうしたアーティストの時代感覚は、数十年先取りしていたり早すぎる傾向もあるが、さじ加減を考えればビジネスにも活用することができる」とし、五感を研ぎ澄ませて世の中の変化を敏感に感じ取ることの重要性を説いている。

大量生産・大量販売時代は、会社というハコの中で個人に細分化された仕事を振り分け、専門的なスキルを向上させてきた反面、コンクリートの檻の中でセンスを失った「感性オンチ」を量産してしまったとも言えよう。待っていても自分の目の前にリンゴが運ばれてこなくなったいま、再び野に出て様々な刺激と出会い、問題を嗅ぎつけられる野性の感覚を取り戻すことが求められているように思う。

大事なのは真剣勝負の繰り返し

具体的なセンスの磨き方に関して示唆に富んでいるのは、言わずと知れた、史上初の「永世七冠」を達成した将棋棋士、羽生善治著『直感力』(PHP新書)だ。



羽生氏は、直感は天賦の才などではなく、後天的に磨くことができるものだと説き、「(直感は)適当、やみくもに選んだものではなく、やはり自分自身が今までに築いたものの中から生まれてくるものだ」と続ける。

すなわち、人生で幾度となく直面する決断が必要な局面において、真剣勝負で何度もトライ&エラー繰り返すことによって、直感というセンスが育まれていくというのである。

電車や自動車といった交通手段の発達は、人類の移動を飛躍的に便利にした。同様に、AIをはじめとする情報テクノロジーの発達は人類に様々な便益をもたらすだろう。しかし、モビリティの発展によって現代人の足腰が弱るという現象が起きたように、人類にとって思考負荷が少ない環境は、センスを鈍らせるという副作用をはらんでいるとも言える。

四方八方便利につつまれた時代だからこそ、立命館アジア太平洋大学の出口治明学長がこれからは「人・本・旅」を大切にせよと言うように、組織の外に出て、たくさん人と会い、たくさん本を読み、たくさん旅をする(≒現場に行く)ことで、新しい問題を嗅ぎ分け、食える食えないを見極められる“野生の勘”を磨いていくことをお勧めしたい。

連載:クリエイターの本棚
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文=川下和彦

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