「変化の時代を生き抜く」糧になる3冊|クリエイターの本棚

『武器になる哲学』(KADOKAWA)

旅するように、本を読む。一冊の良書は好奇心を刺激し、読み手を新たな書へと駆り立てる。

この連載では、新規事業開発や広告制作を手がけると同時に、本をこよなく愛する筆者が、知的欲求を辿るように読んだ書籍を毎回3冊、テーマに沿って紹介していく。第7回は、「変化の時代を生き抜く」ための3冊。


以前、こんなことを書いた。20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて経済が右肩上がりの時代は、仕事という果実を「リンゴ」に喩えるなら、リンゴを拾う人、運ぶ人、皮を剥く人、切る人、盛り付ける人という具合に、効率が追求されるなか、それぞれの持ち場で再現性の高い作業のできる人材が重宝とされてきたと。

言い換えれば、個々に振り分けられた課題を解決できる高度な「スキル」を持った人材が求められ、量産されてきたということである。しかし、モノやサービスが溢れ、経済が踊り場を迎えると、そもそも皮を剥いたり切り分けたりするリンゴにありつけず、せっかく磨いた「スキル」も宝の持ち腐れになってしまう。

生き抜く知恵が詰まった「武器庫」

そんな時代の変化に適応し、この先厳しさを増すビジネスの世界で生き残っていくためには、仕事につながる問題発見の「センス」を磨くことが重要であると、独立研究家、著述家の山口周氏は言う。

山口周氏と言えば、ベストセラーとなった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)の著者として有名だが、その鋭い洞察力が多くのビジネスパーソンから支持を集めている。

では、なぜ山口氏には今の時代が抱える問題の本質がよく見えるのか。それは、「哲学」という眼鏡を持っているからである。今や同氏が上梓する本は次々にヒットを飛ばしているが、そのバックボーンとなった企業秘密を惜しみなく公開するのが『武器になる哲学』(KADOKAWA)である。

哲学と言えば、難しく漢語訳されている書籍が多いせいか、親しみがたく、実社会でまったく役に立たない学問のように思われがちだが、本書を読めばその思い込みが根底から覆されるだろう。難解な概念を時系列で解説する退屈な哲学入門書とは一線を画し、山口氏の時代洞察センスを磨き上げてきた哲学のキーコンセプトがズラリと並ぶ本書は、これからを生き抜く知恵が詰まった「武器庫」さながらである。

脱「感性オンチ」

幼い頃、練習帳でお手本をなぞることで文字を覚えたように、先人の思考プロセスを追体験することでセンスを培う喜びに触れたなら、次にお勧めしたいのは、東京芸術大学大学美術館長・教授、秋元雄史氏著『アート思考』(プレジデント社)だ。

秋元雄史氏著『アート思考』(プレジデント社)
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文=川下和彦

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