ビジネス

2019.12.27

カプコン社長が語る、eスポーツを広める意外な「次の一手」

辻本春弘(カプコン 代表取締役社長COO)


地方活性化の一助になるための再定義

だからこそ問われるのは、デファクトスタンダードになり得るゲームを育てるためのゲーム開発会社の戦略性だ。
 
カプコンは、日本メーカーとしてはいち早く14年から米国を中心として海外の国や地域を舞台にチャンピオンを決める「カプコンプロツアー」を展開してきた。それができたのは、『ストリートファイター』が海外販売比率約7割、累計販売本数4300万本を超える、世界に通用するヒットブランドだからだ。
 
デファクトスタンダードに押し上げるために展開するのが「マルチプラットフォーム戦略」だ。ひとつのゲームブランドは、パソコンやゲーム専用機、スマートフォンといったデバイス、さらにスマートフォンのOSなどに依存することなく、端末を限定されずに楽しめるようにする。さらにコンテンツの映画化やアニメ化を図り、「ワンコンテンツ・マルチユース」を推し進める。『バイオハザード』が映画としても大ヒットしたことはひとつの好例だ。
 
家庭用ゲームソフトは、日本が生み出したクールジャパンの象徴でもある。しかし、eスポーツの展開に関していえば出遅れている。賞金総額の上限や競技会のあり方などの壁があることもその一因だ。ただゲーム業界は、スポンサーが増えて賞金総額が高い大会が増えればよいと単純に考えているのではない。

辻本は、「18年にeスポーツの競技団体である日本eスポーツ連合(JeSU)が設立されたのも、プロ向けの競技でとどまっていてよいのかというeスポーツの意義の再定義について、業界共通の問題意識があったからです」と説明する。
 
その意義について、意外だが、辻本が挙げたキーワードは「地域」だった。「地域と共存し、地域の活性化に貢献できるeスポーツをめざすこと」だと言う。そのための施策としてまず、eスポーツに個人対個人の対決のほかに3対3の団体戦を導入。戦いの面白さを増すだけでなく、より幅広い層が参加できるようにした。
 
団体戦は、地方でのイベントなどで活用してもらいやすい仕組みだ。例えばカプコンは、18年から札幌、盛岡、広島など、地方も含む6会場で「ルーキーズキャラバン」という大会を始めている。団体戦でさまざまな地元の人に気軽に楽しんでもらう一方で、そこから将来のプロを育てようというのである。

「競技を見てみたい、地元の選手を応援したいという期待に応えるために地方での大会を検討中です。またeスポーツは、入場を有料にするなどのマネタイズの確立が急務。さらにメーカーが賞金付き大会を主催できるようにします。こういった運営ノウハウを提供していくのも私たちゲームソフト会社の務めです」(辻本)
 
勝利に感情を爆発させるプレイヤー、そして盛り上がる観客。会場が一体となり相乗効果で熱気が生まれる。そして残るのは深い感動だ。「自分もあの場所に立ってみたい」という、ふとした興味を育てることこそが、あらゆる人材を発掘する原点だ。eスポーツがもつ優れた特性を、どのように生活のひとコマへと転換していくか。日本のeスポーツ業界は、そこにこそ注力しようとしている。


辻本春弘◎カプコン代表取締役社長COO。1987年入社。アミューズメント施設運営事業立ち上げに参加し、高収益ビジネスモデルを確立。1997年取締役を経て2007年から現職。

文=船木春仁 写真=木下智央

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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