2017年11月、合同会社DMM.comはベルギーのサッカーリーグ1部「シント=トロイデンVV(STVV)」を買収した。クラブCEOには、FC東京でGMを担当していた立石敬之を起用。DMMがこれまで拡大してきたビジネスのノウハウと、Jリーグの一線で活躍してきたスポーツ人材の知見が組み合わされた、大きな可能性を秘めた事業である。
だが、DMMはなぜ、いちスポンサーではなくオーナーとしてサッカークラブ経営に乗り出したのだろうか? DMM.com会長・亀山敬司に欧州クラブ運営事業を提案した張本人である執行役員の緒方悠は、理由を2つ語る。
「ひとつは日本人選手が海外で成長できる環境をつくりたかった。もうひとつは何より、ビジネスとして大きなポテンシャルを感じたからです。日本のサッカークラブ経営と比べてもヨーロッパではサッカービジネスが深く根づいていますから」。
高い収益性の土台のひとつが移籍金である。欧州のビッグクラブへの移籍となれば金額は億単位だ。2019年7月には、STVVに所属していた日本代表・冨安健洋がイタリア・セリエAのボローニャへの移籍を決め、10億円前後(編集部調べ)の移籍金収入を得た。
しかし、なぜサッカークラブ経営の舞台としてベルギーリーグを選んだのだろうか? 緒方は狙いを語る。
「ベルギーは選手の育成に長けたリーグ。地理的にドイツ、オランダ、フランスに囲まれていてイングランドも近いので、各国からスカウトが訪れ、有望な若手選手に声が多くかかるんです」。さらにベルギーリーグでは、国の制度として25歳以下の若手選手を獲得するとクラブ側に還付金が渡されるのだ。クラブ側はステップアップの見込める選手を獲得し、還付金を受け取り、育成し、選手は次の舞台へ羽ばたく。
「選手の将来性やステップアップを第一に考えて獲得します。結果として欧州の強豪リーグに移籍することも少なくなく、高額な移籍金を残します」と緒方。このように、ベルギーのリーグが国を挙げて育成と選手の移籍を支援している環境を見定めた点で、DMMの着眼点は賢くかつ戦略的だ。
「個人のスタジアム経営」と「スポンサー同士の社交の場」が根付くベルギーリーグ
DMMがクラブ経営において重要視しているのが、「スポンサーアクティベーション」だ。この概念は、「スポーツチーム、大会、選手、協会などの協賛企業が与えられるマーケティング権、プロモーション権などを活用して行う活動」と定義される。クラブ経営を長期目線で考えると多くのスポンサーによる支援は不可欠だ。そしてスポンサーアクティベーションの観点からベルギーという国を分析すると、ここで根付いた文化から受ける恩恵はかなり大きい。
まずひとつが、試合前から試合後にかけて行われる「マネジメントディナー」という慣習。これは双方のクラブ経営陣とスポンサーが一緒に食事をすることだ。ビジネスの会話をする社交の場として機能しており、DMMやベルギー現地で観戦できるスポンサー企業がヨーロッパ企業とネットワークを築く大きな足がかりになるのだ。しかしこの文化は、DMMが提供できるスポンサーアクティベーションの一例にすぎない。