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2019.12.23 07:30

FCバルセロナのスタジアム改修を手がける日本企業の「逆転の発想」

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カンプ・ノウにふさわしい姿
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代表取締役社長の亀井忠夫(右)と執行役員の村尾忠彦(左)

日建チームは各階の外側に3層のバルコニーをつくるという発想を思いつく。そこにソファを並べ、観客にくつろいでもらうのだ。村尾が続ける。

「開放的な雰囲気と、バルセロナの陽気な人たち。それがカンプ・ノウに最もふさわしい『外装』になると思った」
 
新カンプ・ノウは、現在の約9万9000席から10万5000席に席を拡張する予定だ。世界最大級の集客を誇るスタジアムだからこそ可能な逆転の発想だった。
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FCバルセロナの第三副会長でエスパイ・バルサ(再開発プロジェクト)の担当役員であるジョルディ・モッシュも「季節を通して地中海性気候を楽しむことができる」と、3層バルコニーが決め手のひとつになったと語る。
 
日建はさらに大人数の入場者を効率よく移動させるためのデッキの代わりに、エレベーター、エスカレーター、階段が一体化したコアを外部に12基建てることを提案。相手は感嘆の声をあげた。村尾は「おまえらやるな、という雰囲気になりましたね」とにやりと笑う。

収益性を高めるために、パブリックスペースを広げ、そこにショップやレストランを併設することで少しでも訪問者の滞在時間を増やす工夫も凝らした。スタジアムは、年間約180万人訪れるスタジアムツアーの客を含めると毎年、約600万人の入場者が見込める。客がお金を落としやすい環境をつくれば莫大な収入につながる。社長の亀井忠夫が言う。

「日本だとスポーツ施設は、ビジネスよりも体育施設という考えになりがち。でも収益を望めば、とてつもない可能性を秘めているんです」。
 
3度のワークショップと2回のプレゼンテーションを経て16年3月8日、日建のもとに当選の知らせが入った。結果的にワークショップ方式が追い風となった。日建設計としてはヨーロッパ初の仕事であり、スタジアム設計としては海外初の受注となった。

知らせを受けて、村尾は仲間の手で生まれて初めて「宙に舞った」と言う。実は多くの設計メンバーは、カンプ・ノウのファイナリストに選ばれ歓喜した8日後、悲劇のどん底に突き落とされていた。関わっていた新国立競技場のザハ案が白紙撤回となったのだ。そのときの悔しさがあったぶん喜びが爆発した。
 
ただ、新国立建設で砂を噛んだ経験は、無駄にはならなかった。社長の亀井は控えめながらもこう胸を張る。

「新国立の設計チームには世界トップのスタジアム設計の知見があった。そこで培ったものが今回のワークショップで全部、生きた」。
 
バルセロナは、26年完成予定のサグラダファミリアが象徴するように建築の街でもある。同教会の主任彫刻家は、日本人の外尾悦郎だ。サクラダファミリアと双璧を成すといってもいいバルセロナを代表する建築物・新カンプ・ノウは、それよりも2年前、24年夏にやはり日本人の手によって誕生する予定だ。


日建設計◎100年以上の歴史を持つ建築設計事務所。さいたまスーパーアリーナや東京ドームの設計などを手がけてきた。

亀井忠夫◎代表取締役社長。1955年、兵庫県生まれ。ペンシルバニア大学・早稲田大学修士課程修了。81年入社。建築家として東京スカイツリーなどを手がける。2015年より現職。

村尾忠彦◎執行役員。1962年、大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了。88年入社。クイーンズスクエア横浜などを手がける。2018年からバルセロナ支店長を兼任。

文=中村 計 写真=木下智央

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