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民事裁判の「勝訴」判決を受け、支援者の報告会で笑顔を見せる伊藤詩織さん

ジャーナリストの伊藤詩織さんが、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、元TBS記者の山口敬之さんに対し、損害賠償を求めた民事裁判で、東京地裁は12月18日、山口さんに330万円の損害賠償の支払いを命じる判決を下した。

刑事告訴と検察審査会への審査申し立てを経ても立件に至らず、ようやく被害の訴えが司法に認められた伊藤さんは、支援者らへの報告会で、「刑事事件が不起訴になり、ブラックボックスの中に入ってしまった証言や資料が出てきて、皆さんとシェアできたこのプロセスこそがとても意味のあることだと思います」と語り、安堵の表情を見せた。

だが一方で、今回の判決は、改めて、刑事事件で性被害が事実認定されるハードルの高さを浮き彫りしたと言えるだろう。民事と刑事でなぜこれほどまでに、結果が分かれるのか。

「構成要件」というハードル

刑事事件で、有罪無罪を決める上で最も重要なのが、犯罪の構成要件。簡単に言えば、犯罪が成立するための条件のことだが、いくつかある条件全てに当てはまらなければ、罪は認められない。

例えば、伊藤さんが訴えた準強制性交(当時は準強かん)罪の場合、「心神喪失か抗拒不能となった人に」「性交などをした」と認められる場合のみ、罪が成立する。

「心神喪失」は、刑事事件では「精神的な障害によって正常な判断力を失った状態」を指し、「抗拒不能」は「心理的または物理的に抵抗ができない状態」を指す。これらに当てはまらなければ、被告や容疑者は無罪となる。

性犯罪捜査に求められる「心理の推察」

だが性犯罪事件では、被害者が酒を飲んで酩酊状態にあるなど、事案発生時の記憶がないことも多い。伊藤さんの場合も、山口さんと飲食を共にした寿司店のトイレに入ってから、ホテルで目を覚ますまでの記憶がなくなっていた。つまり刑事事件では、酩酊状態にあっても、相手との同意がなく、自分がいかに抵抗不可能だったかを証明することが求められてしまう。

確かに、構成要件の規定は、法の拡大解釈などを防ぐという意味で重要だ。だが、性犯罪事件の捜査においては、構成要件を踏まえた上で、被害者の心理を鑑みる考え方も必要なのではないだろうか。

「同意があったかどうか」が争点となっていた今回の民事裁判の判決では、伊藤さんの記憶がなくとも、「山口氏の供述が不合理に変遷していることから、信用性に重大な疑念に残る」とされた。

さらに、伊藤さんが寿司店ですでに酩酊状態にあったこと、意識が戻った午前5時50分という早朝に山口さんのホテルから立ち去っていること、事件の後、警察に相談をして、医療機関でアフターピルを処方してもらっていることなどの状況を積み重ね、判断材料にし、性交に同意がなかったことを認定している。

文=鷲見洋之 写真=督あかり 

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