パリと東京、服と性を問い直す。ファッションデザイナー末定亮佑の反骨 #東京の人

「SUÉSADA」デザイナーの末定亮佑。自宅兼アトリエにて(写真=小田駿一)


SUÉSADA、鮮烈なデビュー

大学の同級生であるアートディレクターや、フォトグラファーら志の近いスタッフとの出会いに恵まれ、ルックブック(ブランドがシーズンごとに制作するカタログ)を発表すると、早速ファッションメディアに掲載された。

「ファーストコレクションでは『肌や体のラインを見せる服は着る人の体型や年齢に大きく依存するが、セクシーなシンボルやイメージを着ることで誰でも自分の女性性に自信が持てるのでは』という考えのもと、ブラジャーの肩紐がずれ落ちたモチーフをあえて金具で製作して服に取り付けるなど、『自分から見せる強い女性』を表現」( FASHIONSNAP.COM、2017年04月22日掲載記事より)

さらに伊勢丹新宿店から連絡があり、気鋭のデザイナーのコレクションを紹介するフロアでの展開が決まった。数々のブランドが生まれては消えていくなか、伊勢丹との取引は鮮烈なデビューと言える。

いまの自宅に引っ越し、展示会を始めた。ショールームや出張での受注展示会も行う。

新作は「性との距離感」がテーマ。リラックスできるゆったりしたシルエットが心地よい。

東京の「優しさ」とは一体何なのか

末定さんのルーツは東京にはない。東京に住まい、東京からコレクションを発表しているというだけだ。東京のカルチャーを体得している人は羨ましい、とも言う。

末定さんは東京の街を、「良くも悪くも優しい街で、ナイーブ」と形容する。

東京は挑戦者が集まる都市でもある。パリよりずっと大きい街で、単一言語、国内で完結できる市場が出来上がっている。仕事も選ばなければ、たくさんある。人々が優しく、人に騙されることも、犯罪も比較的少ない。若手デザイナーがブランドを立ち上げる街としては、市場や生産背景など、恵まれた環境が整っていると実感する。

「パリはもっとヒエラルキーが明確で、マッチョイズムが強く、様々な国から鞄一つでやってくる人たちがものすごく貪欲でした。日本から世界的なファッションブランドを志すのであれば、東京の『優しさ』に甘んじていたら、東京の先に行けないと思う」。飄々と、自戒するように、語った。

様々な分野で「登竜門」が崩壊し、誰もがフラットに挑戦できるようになった。一方で、話題性だけでなく、過去のデザイナーや現在の社会、カルチャーと照らし合わせ、文化的、相対的に洋服の価値を評価することはできているのだろうか。

自身の現在地を冷静に分析する。「SUÉSADAの、『新ブランド』という鮮度はもう落ちている。新しいブランドがどんどん立ち上がっています。国内市場の状況から見ても、この品質、この価格帯の服をつくり続けていくというのは、簡単なことではない。今後、いかに続けていけるかが重要になってくると思います」

課題は自覚している。全体のディレクションやPR、プロモーションプランも強化していかなければいけない。

一方で、自宅での展示会は結構気に入っているのだという。「意外と新鮮に感じていただけるみたいです。お客さまとの距離も近いですしね」

ひたすら好きなことを貫いて、ここまでやってきた。まだまだ夢の途上だ。

「いま、この年になって、亡くなった父と話してみたいことはいろいろありますね」

仮住まいの東京。この街に安住しようと決めた人たちの一戸建てが並ぶ住宅街の片隅に身を置きながら、見ている景色は世界だ。

夢を置いてきたパリに、いつかまた──。



2度目の五輪開催を控える東京。Forbes JAPAN Webの連載「#東京の人」では、東京に生きるさまざまな人の生きざまを描きながら、この都市を少しずつ理解していきたいと考えています。

東京が包摂する多様性や危うさ、まだ見ぬ可能性を、ここでもがきながら生き抜く人々の“酸いも甘いも”のストーリーと、フォトグラファー・小田駿一の写真を通じて描いていきます。

男60歳。昨年、ホームレスになった。 #東京の人

文=林亜季、写真=小田駿一

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