キャリア・教育

2019.12.27 09:00

グーグルからの初出資を手掛けた、ABEJA加藤道子CFOの「山っ気」


現場に身を置いてみたい。投資ファンドからスタートアップに飛び込んだ。

ビジネスの風景もだいぶ様変わりしてきました。私が就職活動をしていた10年前は高いスキルを持つ「専門家」が重宝されていたのが、今はスキルを持ったうえで、時代の変化を察知しながら複数の領域をつなぎ合わせ、ビジネスを生み出す人が求められるようになってきているように思います。

ABEJAに移ったのは2018年、知り合いだった岡田陽介(ABEJA代表取締役CEO)に私から声を掛けました。岡田のような突き抜けた人と仕事してみるのは、自分がそうでない分、面白い風景が見られるかもしれないし、私も役立てるかもしれないと思って。たまたま私のようなスキルを持つ人を探していたと聞き、飛び込みました。

スタートアップは実績も資金力も途上です。しかも想像以上にカオスな状況で、「人」の存在がその組織の空気を左右する面がずっと強い。

誰かが頑張って実現した契約1件で気持ちが舞い上がったり、誰かの弱気が伝播したり。苦しくてたまらず泣きながら会社に行くことがある一方で、仲間と何かを成し遂げる、手触り感たっぷりの面白さもある。

人間関係、組織の改善は「これ!」という正解がないし、ゴールもない。組織って生き物だなと、つくづく思います。


「行き詰まったらジャンプ」を繰り返して見えたもの

初めて海外で暮らしたのは高校2年生の時です。広島に来た外国人留学生たちとたくさん友達になりました。でも自分は外の世界を知らない。もやもやした気持ちの突破口のようなものを求めて、アメリカ・ニューヨーク州の高校に1年留学しました。

この年、同時多発テロが起き、国内の愛国心モードが特に高い時期でした。黄色いスクールバスにぽつんと1人で座っている、ということがよくあって、辛いことも多かった。でも、ある日、それまでの自分が持っていなかったような新しい「マインドセット」になっていました。「価値観が変わるってこういうことなのか」と思った経験です。このとき、思い切ってジャンプして得られるものの大きさに気づきました。

そこから今にいたるまで、行き詰まったり、前に進めなくなったりしたら、なにかしらの「ジャンプ」をしてきました。

何かをやめたり、方向性を変えたりすることで、どこか中途半端な自分にモヤモヤしていた時期もありました。でも今は、驚くほどの速いスピードで時代が変わっているからか、全く異なる分野を越境して新たなキャリアを作っている人たちが増えてきていますよね。その複雑性を理解したうえで、交わることのなかった異分野のもの同士をつなぎ合わせて新しいものを生み出し、成長していくような。

だから、あえてレールから外れる時期があった方がいいのではないかと今は思っています。失敗したと思っても、後で幅広い役割を担う下地になるし、外れて手に入るマインドセットも必ずあるので。

今は、すべての企業がある意味で「テクノロジー企業」の側面を持つようになり、今後はすべての企業が「AI企業」になっていくのではないかと思います。どうなるか先が見えない中では、何もしないでいる方がかえって危ない。そのためには自ら「転がり続ける石」でいようと思っています。


ヤマッ気、しびれる状況を楽しむ

CFOは、会社を投資家に売りこんでいくのが仕事の一つです。いろんなチャンスは転がってくるのですが、一つ一つの勝率は低く、1回ドアが閉ざされると多分セカンドチャンスはない。そんな状況でも点と点をつなぎ勝機を見てゴールを決めていく。目標が高いほどアドレナリンがみなぎるし、目標がないと逆に元気が出ない。

「ここで一言でも間違った言い方をすると下手な方向に転んでしまうかもしれない」という緊張感を常に抱え、結構シビれるシーンも何度か経験してきました。
きっと、「山ッ気」があるんでしょうね。でもそのほうがワクワクして「生きてる」と実感できるんですよね。

スタートアップの界隈では「失敗してないということは、大事な挑戦をしていないということだ」「Fail fast」(さっさと失敗して学べ)という言葉があります。この言葉を支えにして、これからも挑戦を恐れずに飛び込みたいと思っています。

今明かす、ABEJAがグーグルから出資を受けることができた理由


加藤道子(かとう・みちこ)◎ABEJA取締役 最高財務責任者 CFO。モルガン・スタンレー証券、世界銀行グループIFC、ユニゾン・キャピタルでプライベート・エクイティ投資業務、M&A、資本調達等に従事。フルブライト奨学金を得てHarvard Business SchoolでMBA取得。2018年7月にABEJAに参画、2019年6月から取締役。

文=林亜季、写真=小田駿一

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