スウェーデン南部に位置しながら、デンマークの首都コペンハーゲンから電車で30分にある「ルンド」は、人口約10万人の小さな街だ。ここに、北欧最多の学生数を誇るルンド大学が広大なキャンパスを構える。
工学、医学など自然科学に強く、産学連携も盛んで、IT、バイオ、ナノテク、材料工学の分野に長けている。1983年にサイエンスパークがこの地に整備され、エリクソン、アストラゼネカ、テトラパックという世界企業を生み出してきた。
UNOPSは、10月21日、ルンドに「グローバル・イノベーション・センター(GIC)」を開設した。記念式典には、スウェーデンのイノベーション大臣やルンド市長が出席し、「SDGsを達成する問題の克服するために、このGICはルンドだけでなく、北欧の大企業や起業家が持つテクノロジーが活用されるハブになる」と語った。
2030年を目標とするSDGsは、グローバル社会の官民共通のアジェンダであり、有望な市場にほかならない。そこで、それにつながるイノベーション拠点を、スウェーデンとルンド市は誘致したのだ。
UNOPSは、先進国だけでなく途上国も含め、世界15か所にGICを設置する計画であり、ルンドは、カリブ海のアンティグア・バブーダに次ぐ、世界では2拠点目となる。
日本の「休眠特許」に日の目を
先端テクノロジーの貯蔵庫となるGICが対象とするのは、スタートアップが得意とする人工知能やブロックチェーンといった最新のデジタル技術だけでなく、「休眠特許」として眠っている技術も含んでいる。
「休眠特許」とは、知的財産としての価値を認められ、特許を取っていても、ビジネスに使われることがない特許のこと。日本の企業は、技術開発に力を入れる一方、事業化戦略が弱いので、せっかくの技術が持ち腐れになることも多く、国内の有効特許数およそ135万件のうち、5割弱がこの「休眠特許」となる。
GICでは、世界各地の現場から注文を受けると、貯蔵庫にあるテクノロジーを現場ニーズに合うように加工して届ける。この部分をチャレンジ精神旺盛でフットワークが軽いスタートアップに任せたい考えだ。スタートアップは、国連調達という実績で売上を上げて、大きく成長できる。
さらに、世界15拠点がつながることで、ネットワーク上の起業家によって休眠特許の活用法が見つかる。すると特許を持っていた企業には知財収入として還元されることになるというわけだ。
この11月28日、アジアで初となるGICが、来年日本に上陸し、神戸に開設されるという発表があった。アジア各国の中から、日本が選ばれたのだ。国内企業がSDGsに関する取組みを進めるうえで、大きなチャンスが生まれたのではなかろうか。