まずはカウンターで待ち合わせ。「ル・リュビ」で楽しむ典型的なビストロ料理

Le Rubis(ル・リュビ)


ボジョレー・ヌーヴォー解禁の11月21日、ル・リュビへ出かけた。その日は通常より品数が少なく、黒板メニューがコンパクトだったが、ブルギニヨンは言われた通り、ラインアップされていた。

それだけ楽しみにしてしまうとがっかりしそうなこともありそうだが、果たして、期待を裏切ることはなく、むしろそれ以上だった。艶のある茶色いソースは、思い描くビーフシチューそのもので、大きなジャガイモと人参が彩りを鮮やかにしていた。具とソースの割合も、ソースの濃度も味わいも、「そう、これこれ」とまたも頷きたくなるものだった。綺麗過ぎないソースが、心をほぐした。

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とても親しみの湧く味のブッフ・ブルギニヨン
 
前の店主の時代から変わらず、ル・リュビでは、店のカーヴでボジョレーやコート・デュ・ローヌの数種のワインを、樽から自分たちでボトルに詰めている。ブッフ・ブルギニヨンは、ボジョレーで煮込んでいるそうだ。

何かしらの煮込み料理がいつもあって、さらにそれが好みの味とくれば、陽が顔をのぞかせる日が圧倒的に少なくなる季節のパリで、そこはまさに陽のあたる場所だ。その翌週もまた出かけると、今度はポトフが登場していた。骨髄付きである。

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ジャガイモ、大根、人参、ポロネギ、セロリ、野菜も盛りだくさんのポトフ

ポトフは、一般的には、まず始めに具を食べてから、最後にブイヨンを楽しむ。だからビストロでも、小鍋でサーブされテーブルで取り皿に自分で装うスタイルがよく見られる。

でも、ル・リュビでは、ひと皿にこんもり盛られて出てくる。添えられた骨髄を、大根やジャガイモにつけ、粗塩をぱらっとかけて食べていたら、みるみる野菜が減っていく。

3時間半煮込み、脂っ気の抜けた牛の首、肩、バラ肉は、噛むごとに広がる風味が、野菜も一緒に食べているようだった。具材から出汁が出切ってしまって、具には味が残っていないポトフも少なくないけれど、気前よく盛られたこのポトフは、具材それぞれがブイヨンをしっかり貯えていた。

友人とのランチでこのポトフに出合った私は、もう一度じっくり向き合いたくて、翌日もまたこのポトフを食べに出かけた。珍しく早い時間帯に着き、昼になったばかりのまだ客の少なかった店内で注文すると、店主はご機嫌で、「シェフ、アキコは2日連続でポトフを食べるって」と2階の厨房に告げていた。

連載:新・パリのビストロ手帖
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文・写真=川村明子

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