料理は家事なのか? シングルマザー率6割のケニアを救う「手作りケーキ」

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家族の大切な日には、美味しくて幸せになれるような豪華なケーキで祝いたい──。

母親たちとの交流を通じ、ワンジュクはビジネスチャンスを見出した。独学でケーキやデコレーションの技術を学び、健康的なベイキングを普及させようと立ち上げたのがベイカーズクラブだった。
 
立ち上げ当初は困難も多かった。ケニアの一般家庭のキッチンは信じられないくらい簡素だ。

「こんな場所でケーキなんて絶対に作れないとみんな思い込んでいた」とワンジュクは振り返る。「ケーキ作りには特別な技術と環境が必要で、難しい訓練を受けなければいけない。ケニアの女性たちはそう信じ、自分で最初からハードルを上げていたんです」

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料理イベントを開催するワンジュク・ムーゴ

そこでワンジュクは、ともに料理をするクッキングイベントを頻繁に開催し、ユーザーに直接ベイキングやデコレーションの技術を教えた。腕を上げたユーザーたちはレシピを共有し、互いに教えあうようになり、徐々にコミュニティは広がっていった。

今やフェイスブックグループのベイカーズクラブの登録ユーザーは30万人を超えている。「ベイカーズクラブを通して、今はとても多くの女性が安定した収入を得られるようになりました。そして彼女たちは自分の知恵や技を、これから新しく始めたい人たちにも惜しみなく伝えてくれています」。ワンジュクは目を輝かせながら、にっこりと微笑んだ。

ベイカーズクラブは、自宅の小さなキッチンから、女性を社会に解放した。彼女たちは家にいながら、自分の腕ひとつで経済的な自立を掴み取った。もはや彼女たちにとって料理は家事労働の一部ではない。自身をエンパワーするために欠かせない、武器のようなものだ。
 
ケニアの抜けるような青空の下、私の「料理=家事労働?」というモヤモヤはガツンとぶっ飛ばされた。
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文=小竹貴子 構成=加藤紀子

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