しかし、「自分だけパラシュートを持って飛行機に乗るわけにはいかない。墜落したら一連托生という気持ちでないと、人はついてこない」。すべて自分なりに考えたライト・シングだった。
モノタロウでは、相対取引で相手によって価格を変えることがあたりまえだった工具流通業界に、一物一価を持ち込んだ。業界から猛反発を食らい、事務所に脅迫状が届いたりガラスを割られたりもした。しかし、「みんな同じ値段で売るほうが合理的」と信念を貫いた。それが正しかったことは、モノタロウが大きく成長したことが証明している。
ただ、ビジネスの世界は冷徹だ。時には厳しい現実にぶち当たり、自分の信じる“正しさ”が砕け散ることもある。創業家と争った今回のプロキシーファイトも、数の論理から言えば勝算が乏しかった。それでも迷いは生じなかったのか。そんな疑問をぶつけると、瀬戸は一蹴した。
「困難に直面すると、『どんなときも勝つ方法は必ず存在する。自分もそれを知っているはずで、いまは忘れているだけ』と考えます。正解を探そうとすると、『本当は答えはないかも』とあきらめてしまいかねないけど、忘れているだけなら、愚直に考え続けることでいつか思い出せる。そう考えているから、どんな状況でも不思議と負けると思ったことはない」
根拠なき自信は、瀬戸だけでなく、周囲の人たちにも伝搬していく。「負けるかも、と思っている人間を支えてくれる人はいません。今回も、僕が確信をもって行動に移していたから、陰に日向に応援してくれる人がたくさん現れたのではないか」
株主総会で見事に勝利を収めたものの、退任騒動によって生じた8カ月のロスは小さくない。大切なのは、これからLIXILをどう導くかだ。
「会社のコアと関連性が低いアセットはある程度の整理をして、会社を戦いやすくする。また、コア事業のサッシ部門は高コストで儲かりにくい構造になっているので、生産改革を行って固定費を下げるだけでなく、差別化した商品も開発していきます」“雨降って地固まる”で、改革をやりきる環境は整った。あとは瀬戸が信じる正しさを証明するだけだ。
せと・きんや◎1960年生まれ。83年、東京大学経済学部卒業、住友商事入社。2000年、MonotaRO設立。01年に同社社長、12年に会長就任。16年、LIXILグループ取締役代表執行役社長兼CEO。18年10月に解任されるも、19年6月の株主総会でCEOに返り咲く。