私がデザインを担当している福島の酒蔵「仁井田本家」も、はだかを見せる事例といえます。元々仁井田本家の商品デザインはザ・日本酒らしい世界観でしたが、彼らは無農薬による酒米づくりから始めて、酒づくりも一切の添加物を使用せずに、一年かけて極めてピュアな日本酒をつくります。そんな素晴らしい体が出来上がっていたのに、おおげさな服で着ぶくれを起こしていたのです。
主力商品「にいだしぜんしゅ」は50年以上前に、日本で初めてオーガニックの考え方でつくられた日本酒です。
私がかかわり始めてから3年をかけて、パッケージを検討・刷新。「自然酒」からひらがなに、筆文字から細い鉛筆書きに。いままでの日本酒の重いイメージを脱ぎ捨てたデザインで、ラベルも1/3以下の面積の短冊状にして、環境にも配慮しました。にいだしぜんしゅは、無駄のない体つきにふさわしい身軽な姿にリニューアルされて、購買層を一気に広げました。
仁井田本家のにいだしぜんしゅ
いわずもがな、広告宣伝だけでものが売れる時代は終わりました。生活者の目は常に商品・サービスそのものに向いていて、その目は今後いっそう厳しくなり、高品質なことはもちろん、オーガニックかどうか、環境への配慮、生まれた理由、思想はあるか、などさまざまな視点で「買うべき商品」かどうか品定めをしてくるでしょう。
しかし、「いまはまだ人前ではだかになれないかも」と落ち込む必要はありません。デザインを依頼するということは、自分のビジネスをバージョンアップさせる絶好のチャンスでもあります。優れたデザイナーは、自分の体をチェックする鏡のような存在。これからのビジネスにおいて、一緒に走り込んでくれるデザイナーを見つけるということは、経営者の重要な使命のひとつだと思います。
そして「はだかを見ること」は、デザインをつくる前段階の作業。まずはデザイナーがいなくても実践することができます。例えば、自社製品・サービスの一要素だけを未開拓の外国にもっていけるとしたら、何をもって行くべきか考えてみてください。そこからまた事業化できる原資こそ、あなたのはだか=替えのきかないブランドの魅力なのです。
「Less is more.」は引き算の美学ですが、何を残すべきかについては説いていません。引き算を念頭にデザインを行うと、何も残らない可能性があります。大切なのは、残すべき一要素を見つけること。その答えのひとつになるのが「はだかを見せるデザイン」だと考えます。デザイナーは依頼主のはだかを見極め、ときに体づくりからコーチングして、肉体的にも精神的にも鍛えられた人に、そっと似合うシャツを着せるようにデザインすべきなのです。
人物像を隠すような大げさで派手派手しい衣装は、中身=はだかが求められる現代では本質的にはいらないのです。
何かデザインをつくりたいと思ったら、まずは自分のはだかを見つめてみませんか。
古谷萌◎電通Bチームデザイン・イラストレーション担当。2017年「Study and Design」設立。CIデザイン、商品開発などを中心に、自らイラストレーション、キャラクター開発も手がける。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。