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━キュレーターは、アーティストと作品に深く向き合う仕事ですね。

自分のことではなく、自分以外の人のことを第三者に伝える仲介者ですから、その責任は大きいと感じています。

特にアーティストの活動を数十年間にわたって網羅する個展の場合には、初期作品から最新作に至るまでの道のりを分析し、ときにはアーティスト自身が気づいていないことも含めて構成し、不特定多数の観客にその面白さを伝えたいと思っていますから。

私自身は、作品はもちろんですが、それを作ったアーティストという人間への関心が強いかもしれません。作品のコンセプト、素材選定の理由、行ったリサーチのこと、影響を受けた思想、人、アートなど質問は尽きません。

現代アートというのは、本人と話せることも魅力なんです。例えば同じ世代のアーティストだったとしても、独裁政権下に育った韓国の作家、多文化・多言語国家に育ったインドの作家、文化大革命を経験した中国の作家など、それぞれが置かれていた異なる社会が人格形成や思想に大きく影響しています。

そうなると、世界にはじつに多くの考え方や生き方があり、日本で育った自分の考え方も修正させられ続けています。正解はひとつではなく、あらゆることに違う見方とやり方があり得るということを、アーティストとの対話を通じて、肌で実感しています。

━最後に、これからのチャレンジについてお聞かせください。

世界の現代アートの動向を見つめつつ、なかでもアジア太平洋地域のなかの森美術館という立ち位置を考えたいです。残念ながら日本は、世界の中でそれほど注目されている国ではないと感じています。

成長株でもなく、欧米と同じスピードで近代化を遂げ、今は高齢化社会を迎え縮小傾向にある、アジアの一国です。

それは美術界でも同様ですが、今後のアジア太平洋諸国の成長と、多様な政治的課題も抱える欧米諸国との接続点のような立ち位置は面白みはあるのかなと思います。

美術界自体がグローバルな競争社会にありますから、日本の文化政策としても解決すべき課題は多くあります。森美術館の館長、あるいはCIMAM会長として世界の近現代美術館界、あるいは日本のアート界に少しでも貢献できれば嬉しいです。

一方で、優れたアーティストや作品には出会い続けたいですね。

「これは、すごいかもしれない!もっと多くの人に伝えたい」と思う瞬間は他には替えがたいですから。

肩書きが変わっても、この瞬間は追い続けると思います。

構成=伊勢真穂 写真=小田駿一

VOL.63

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