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━片岡さんにとっての、アートの魅力はどこにあると思いますか。

社会や人間の価値観というのは、数値的な指標に置き換えることが一番簡単なんです。例えば、収入が高いとか偏差値が高いとか、数字に置き換えるとわかりやすい。

そうやって物事の価値観や評価というのは決められがちですが、アートは違います。

どんな視点を持つかによって、何がどういいのかということは変わってくる。経済一辺倒ではない価値観で判断できるということが、私にとってのアートの一番の魅力です。

現代世界は多様な価値観が共存しています。ひとつのものさしではなく、多様な視点で世界の在り方を捉えることが、今日の社会には求められています。

現代美術館というのは、そういった様々な視点を持ち込み、未知の文化に出会い、議論するためのプラットフォームです。

こうしたビジョンはひとつの展覧会だけで完成するわけではなくて、多様な角度から世界を切り取って見せていくうちにミラーボールのような世界が形づくられる。見る角度によって映るものが変わってくるんです。

現代世界をグローバルな視点から理解するためにも、森美術館の展覧会を10年間続けてみていただくことは大変有効だと思っています。

この世界がどんな理屈、どんな構造で存在しているのか、どう変化しているのか。人の意識を広げるための入口としては、現代美術館というのはいい場所なんですよ。

━来館者へ、価値観の多様性や意識の広がりなどを体感してもらうためには、何が一番大切なのでしょう。

現代美術館に求められているのは、体験とストーリーの提供です。現代アートは見るだけではなく、空間ごと身体的に体験し、その背景にあるストーリーや文脈とともに理解することが、SNS全盛の時代にはますます重要になっていると思います。

もちろん、作品の色や形が好き、ということも重要ですが、作者がどのような意図でつくったのかを知ってもらうことも同じくらい重要です。

作品を観る人の感覚的な体験と、どうその作品が作られたのかという知識という意味でのストーリーが合体することで、アートは面白くなる。私たちは、その両方を提供する必要があると思います。ひとつの展覧会をキュレーションするなかでは、鑑賞者の体験というドラマも考えています。

ですから、アーティストの制作活動全般を深く知るために、彼らのスタジオを訪問することはもちろん、本人だけではなく家族や友人たちに話を聞くこともあります。

オーストラリアの砂漠地帯、アルプス山脈の高地、白夜のフィンランド、南インドの古都、ボルネオ島のジャングルなどいろいろな場所にアーティストを訪れました。

彼らが生まれ育った場所の気候風土を実際に体験することも、自分自身のキュレーションには大変重要だと思っています。

2017年に国立新美術館や国際交流基金と行った「サンシャワー:東南アジアの現代美術」展では、2年以上にわたって10か国、18都市を共同調査し、訪問先は400件以上になりました。

構成=伊勢真穂 写真=小田駿一

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