「香港の衰退は始まっている」鳥の目で見る、香港の行く末|#揺れる香港

12月15日、香港デモの犠牲者を弔う人たち(Photo by Anthony Kwan/Getty Images)


香港からシンガポールへ 警戒する国際企業

実は、香港の不動産は、政府とディベロッパーによって人為的につくられた価値体系で釣り上げられています。そのプラットフォームの上に、金融ビジネスなどが活動しており、さらに中国本土からの莫大な資金の流れが、この2つの拡大循環を助長してきました。

香港では、この10年ほどの不動産高騰により、一般の人はもはや家を買えず、ビジネスコストも不合理な水準まで上昇を続ける、という深刻な状況が起こっています。本来、香港政府がここ20年でやるべきであったことは、人為的な不動産市場の構造にメスを入れることでした。ですが、財閥に支配された経済体系に手を付けることを、意図的に避けてきたのが実情です。

この結果、香港はその富を増幅させてきたはずの不動産によって、逆に不安定化しているのです。

高層ビルが立ち並ぶ香港の街並み
空から見た、高層ビルやマンションが立ち並ぶ香港の街並み(Shutterstock)

また、2019年4月に逃亡犯条例案が出されてからは、報道やコンサル系の企業には、香港からシンガポールへの移転を検討する動きがありました。今後中国の影響力が強まる中で、これまでの香港のように八方を結び、自由に活動ができなくなるかもしれないという疑念が生まれています。

すでに世界から、香港は中国と一体化していると見られつつあり、警戒されています。より長い目で見れば、このままでは公平な経済活動のプラットフォームとしての香港ではなくなってゆくでしょう。

一方で、香港のデモ隊の中には、8月ごろから、香港の経済機能を盾にとる動きが出てきました。

つまり、「要求が通らなければ、デモ隊が過激化し、香港の経済機能は麻痺する。あるいは中国が直接介入すれば、アメリカや国際社会が制裁して、香港は終焉する。それでもいいのか?」と。まさに「死なばもろとも」といった発想です。

このようなエスカレーションの中、デモ隊、香港政府、中央政府にとっても、もはや落とし所がわからない状態となっています。

ジェトロ・アジア経済研究所 久末亮一
ジェトロ・アジア経済研究所 久末亮一

「今日の香港は、明日の自分」

私たち日本人が留意すべき点が、もう一つあります。「今日の香港は、明日の自分」と台湾の人がよく言っていますが、中国の影が伸張する中、それは1週間後の沖縄、1カ月後の日本かもしれないということです。

私たちが香港や台湾などの人々と共有する、自由が保証される権利や民主主義の価値観に、しっかりと目を向けることが大切です。いま香港で起こっていることを、決して他人事として捉えてはいけません。

自らの目前で起こっている、マクロでの巨大な変化には、意外と気付きにくいものです。2008年のリーマンショックで、1990年代からの楽天的なグローバリゼーションは終わりました。地政学的な力学に引き戻された、世界の新しい現実に目を向け、覚醒する必要があります。2020年も、こうしたマクロと長期の視点を持って、香港の情勢を注視すべきでしょう。

(「揺れる香港」前編はこちら )


ひさすえ・りょういち◎ジェトロ・アジア経済研究所研究員。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学術博士。香港大学客員研究員、東京大学および政策研究大学院の助手を経て、現職。代表作は『香港 「帝国の時代」のゲートウェイ』(名古屋大学出版会、2012年)など。

文・写真=督あかり

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