デモ隊を制圧する香港警察 (Dave Coulson Photography / Shutterstock)
──デモ隊の五大要求のひとつとして、最大の逃亡犯条例案は撤回されました。それ以外には、警察の暴力を調査する「独立調査委員会」の設置も求めていますが、この動きはどうでしょうか。
2019年6月以降に香港警察による武力行使が激化し、彼らを香港政府が抑えられないことが、事態の悪化を招いています。
本来ならば、行政長官が香港政府のトップであり、その傘下に保安局長がおり、さらに警察長官がいます。ですが、今に至っては「準軍事組織」と化した警察は、シビリアン・コントロール(文民統制)が作用せず、制御できなくなりつつあります。
情報筋によると、雨傘運動以降、香港警察の内部では政治教育が強化されたようです。前回のデモでは、前線にいた警察官の中にはデモ隊に共感を示す若い世代もいました。ですが、内部ではそれに危機感が持たれ、デモ隊は社会の危険要素であり、排除こそが法秩序と香港の安定につながるといった教育を叩き込んだそうです。この結果、今回のデモでは警察官による暴言や暴行などが常態化し、深刻な人権侵害が起こっています。
デモ隊が要求するように、逃亡犯条例案の撤回に合わせて、独立調査委員会の設置にも応じていたら、ここまで長期化しなかったと思います。
香港区議会選挙の候補者を応援するアグネス・チョウ (Photo by Chris McGrath/Getty Images)
──香港で「最も民意を反映する選挙」とされる区議会選挙では、452議席のうち民主派が385席を獲得し、親中派が59議席(投票前は292席)にとどまり、勢力が逆転しました。民主派の圧勝の要因と、今後の展開についてどう見ていますか。
これはやはり、今年の大規模な運動に対して市民の幅広い支持があったことと、社会への不満の表れでしょうね。これまで香港政府とその支持層は、「香港にはサイレントマジョリティがおり、彼らはデモや暴力を容認していない。彼らは香港政府を支持している」と主張してきましたが、今回の結果をみると、そうではありませんでした。
今回の選挙結果が、民意の所在を示し、香港政府、警察、中央政府を牽制する力になったことは事実です。
これまで区議会は親中派が牛耳っていたので、運営面で不透明な点が多くあります。民主派の当選議員たちは、これらを暴きつつ、円滑に区政を運営することが期待されています。
また区議会だけでなく、来年9月の立法会選挙で、どこまで民主派勢力が議席を伸ばせるかが、今後の鍵となると思います。来年に向けて、デモ隊による普通選挙の実現の要求も高まり、香港の問題はまだまだ続くでしょう。
続編では、金融センターである香港がどのように変化していくか、鳥の目で見る香港情勢を久末亮一が解説する。
ひさすえ・りょういち◎ジェトロ・アジア経済研究所研究員。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学術博士。香港大学客員研究員、東京大学および政策研究大学院の助手を経て、現職。代表作は『香港 「帝国の時代」のゲートウェイ』(名古屋大学出版会、2012年)など。