それでは、なぜここまで大規模なデモが長期化することになったのか。久末に詳細を分析してもらった。
長期化の要因1:分散されたネットワーク型デモ
釈放後、報道陣や支援者に向けて話すジョシュア・ウォン (Photo by Carl Court / Getty Images)
──雨傘運動の主導者は、いま海外に向けて発信を強化していると思います。彼らは今回のデモに参加しているのでしょうか。
黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や、日本語でも発信している周庭(アグネス・チョウ)が有名ですね。彼らは、香港の自決権の実現を掲げる「香港衆志(デモシスト)」として政党化し、前回の活動からレベルアップしています。もちろん今回の運動にも積極的に関わっていますが、実際のデモ活動は「民間人権陣線(民陣)」など、いくつかの別のグループが主導しています。そして彼らはつながり、連携しているのです。
雨傘運動では、本部のような中心があり、中核となるメンバーがいましたが、今回は、アメーバのように分散化されたネットワーク型のデモになっています。
例えば、「勇武派」が過激化しすぎると、次は「民陣」などの「和理非」(平和・理性・非暴力)を主張するグループが主導し、市民の広範囲な共感や参加を得ていく。その有機的な連携がうまく作用していることが、ここまでしぶとく今回の運動が長期化している要因と言えるでしょう。
──民主化運動のグループごとに主張の食い違いによって、対立はしていないのですか。
もちろん意見の相違はありますが、彼らは「一体性を保ち続けることが重要」という共通認識を持っています。「席を割らない」というのが標語として使われています。
これまでも、一般市民、「和理非」を掲げるグループ、過激な「勇武派」を分断しようという政権側の動きが何度かありましたが、「私たちが求めていることは同じだ」という意識が強く働き、ここまで盛り上がって、持続していると考えています。
長期化の要因2:香港政府の「忖度」の連鎖
──先ほど指摘された習近平政権以降の「抑圧」とは、具体的にはどんなことがありましたか。
2014年に、香港行政長官を選出するための普通選挙が拒否され、実現しなかった。それ以降も民主派が、「議員就任時の宣誓の仕方が悪い」といった理由で議員資格を剥奪されたり、中国本土や親中派が雇ったと見られるグループによる民主派への暴力行為が表面化したり、圧力が強まってきました。
一国二制度の下では、本土側の越境司法権限が認められていません。しかし、2015年には中央政府に批判的な本を扱う「銅鑼湾書店」の店長など関係者5人が相次いで失踪し、2017年には中国出身で江沢民派に近いとされた富豪が失踪しました。いずれも、中国の公安機関に拉致されたと見られています。
キャリー・ラム行政長官 (Wang Sing / Shutterstock)
こうした中、逃亡犯条令改正案が提出されました。これは林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官率いる香港政府の、中央政府に対する過度な「忖度」の結果です。
しかも、今回のデモに関しては、6〜8月の間に逃亡犯条例案を撤回するターニングポイントがいくつかありましたが、結局9月に撤回を表明するまで、4カ月以上引き伸ばしました。その間、林鄭行政長官は、収拾に向けた中央政府との積極的調整を図ろうとせず、デモ隊に対しても高圧的な振る舞いをしてしまった。
彼女には、デモ隊が何を求め、どうしたら収束するかを、積極的に理解しようとする姿勢が欠落しています。官僚出身のため、大局的な政治の素養や決断力が、著しく低い人物と言えるでしょう。