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2019.12.18 19:00

今明かす、ABEJAがグーグルから出資を受けることができた理由

グーグルからの出資をとりまとめたABEJAの加藤道子CFO(写真=小田駿一)

グーグルからの出資をとりまとめたABEJAの加藤道子CFO(写真=小田駿一)

あのグーグル本体が日本企業に出資するのは極めて珍しい。しかも人工知能(AI)の社会実装を手がけるスタートアップに。

昨年12月、ABEJA(アベジャ、東京都港区、岡田陽介代表取締役CEO)が発表した「ABEJA、Googleより資金調達」のリリースは国内で衝撃をもって受け止められた。報道によると、米グーグル本体から日本のスタートアップに出資するのは初めてのことだったという。

調達はシリーズCのエクステンションラウンド、グーグル等を新規引受先とした第三者割当増資として行われた。この時の出資により、ABEJAの累計調達額は60億円を超えた。グーグルからの出資は数億円規模とみられる。

ABEJAはAIのディープラーニングを活用したクラウドサービス「ABEJA Platform」を提供、これまで200社以上の企業のAI実装の支援実績を誇る。

日本のAIベンチャーへの出資について、リリースでは「ABEJAとグーグルは、日本におけるAI市場のさらなる拡大に向け、小売業や製造業を含むさまざまな分野におけるAIやディープラーニング領域での協業を行い、AIの『社会実装』をともに推進していく」としている。

今振り返る、グーグルとのやりとりの内幕

グーグルの出資は、投資担当者が最初にABEJAのオフィスを訪れてから半年弱で実現したという。その内幕は──。発表から1年。ABEJAの加藤道子CFOがForbes JAPANの取材に当時を振り返った。


出資が明らかになってから、いろいろな方々から、どうやって交渉したのかと聞かれます。「秘策を練っていた?」とか「後ろに強いキーパーソンがいた?」とか。

でもきっかけは、本当に偶然でした。

昨年6月下旬のことです。社外取締役の一人が「面白い会社を探しに日本に来ている」と、上海のグーグルからきた投資担当者を弊社に連れてきてくれました。

絵にかいたような「アメリカンエリート」。台湾出身でハーバード卒、マッキンゼーやゴールドマンサックスを渡り歩き、起業も経験。その上、テクノロジーにも精通していて、人柄も温かく申し分ない。

「さすが天下のグーグルだなあ」と怖気づきつつ、代表の岡田と2人、あいさつしたのを覚えています。

1時間ほどABEJAの事業について説明しました。代表の岡田が「テクノプレナーシップ」という企業理念を披露すると「He’s interesting!」と言ってくれたのを覚えています。

最後に「いま資金調達中なんですが、ご興味あります?」とさりげなくふると、「Yeah」という返事。翌日にはメールで秘密保持契約(NDA)を結ぶやり取りを始めました。

ABEJAに入る前から、投資案件を何度も扱ってきた私ですが、この巡りあわせには久しぶりにワクワクしました。「うまくいけばグーグルからの日本初出資案件になるかもしれない」と。

ベンチャーには、組織が整っていない分、いろんなチャンスの種がゴロゴロ落ちています。それをつかんで、実際モノにできるかどうかは、巡り合わせと自分の気持ち次第です。この投資話もその一つで、たまたまボールが私の前に転がってきただけ。勝算は分からない。でも来たからには「ゴールを決めたい」と思いました。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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