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2019.12.18

今明かす、ABEJAがグーグルから出資を受けることができた理由

グーグルからの出資をとりまとめたABEJAの加藤道子CFO(写真=小田駿一)


国内のVCから資金調達する際、競合調査をして市場理解も深めた段階で交渉に入りますが、今回は良くも悪くも情報ゼロからのスタートでした。日本の市場やそこでのABEJAの位置づけ、今後の展望といった基本的な質問が多く、それに根気よく、ひたすら打ち返していきました。

週に1日程度、「Hi! その後の進捗はどうですか?」などと声をかけ、「そういえば追加で質問があるんだけど……」と返事をもらうと速攻で返答する、といった具合に。

グーグル側は、単なるリターン目的だけではなく、協業によるシナジーを模索していました。その点、ABEJAが日本のAI企業では珍しく独自のAIプラットフォームをクラウド上に持っていたことが、今後のポテンシャルとして評価してもらったのだろうと思います。

テックジャイアントとベンチャーの投資・財務担当者という関係ではありますが、メールを交わすうち、心理的な距離は縮まり、チャットで投資後の成長計画を議論するなど、話もより具体的になってきました。出資されるまで、彼とは100往復以上やりとりしたと思います。

小さなことの積み重ねですが、経験上、こうした1対1の交渉では熱意や真剣さを前面に出して、はずみをつけていくことはよくあります。

ここまで話すと、英語を駆使して交渉を重ねた、と思われるかもしれません。でも私も含め、交渉にあたった役員たちが英語に不自由しなかった、という訳ではありません。

ABEJAの役員がグーグルの担当者に事業を説明したことがありました。終了後、部屋から出てきたグーグルの担当者に「どうでした?」と聞くと、一言「(英語が)厳しかった……」。ほとんどわからないまま、1時間説明を聞いていたのです。あわてて一から説明しました。

それでも無名のスタートアップを面白がってくれたのは、泥臭いながらもなにかワクワクするものを感じとってくれたのだと思います。

シビアなスケジュール、ステークホルダーの反対…

9月に入ると先方からの問い合わせがよりシビアに、より具体的になってきました。出資の意思が強まった証拠です。「大丈夫かな」と弱気になる一方、「これはいけるかもしれない」と言い聞かせました。

しかし、この後しばらく、足踏み状態が続きました。エクステンションラウンドの締め切りは11月末。ジリジリしてきました。

この種の投資案件は一般的に、出資側がリードします。ただ「また話しましょう」などと決定まで間延びしがちで、時に話が流れることもあります。逆に言うと、出資される側がバシッとスケジュールを引いたほうがいいこともあるのです。

「ここで決めないと」。焦りが背中を押しました。9月末、担当者とのミーティングを終えた後、メールで一歩踏み込みました。

「この日までに、御社内での投資検討の可否を一度教えていただけますか」

この呼びかけが契機となって、交渉がグッとスピードアップしました。
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文=林亜季、写真=小田駿一

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