「経営者たちは常にトランプのご機嫌を伺って便宜を図ろうとしている。彼らは、トランプがプレスリリース好きであることをよく知っている」と米国のシンクタンク「Economic Policy Institute」のシニアエコノミスト、Robert Scottは話す。
孫をはじめ、トランプに約束をした経営者たちは、トランプが大統領選に勝利する前から米国に投資する計画を立てていた。孫は、ヤフーやアリババへの投資で大きな実績を上げており、さらなる成果を挙げるため、大統領選の1ヶ月前にビジョン・ファンドを立ち上げた。サウジアラビアやアップルが出資するビジョン・ファンドは、シリコンバレーのスタートアップに1回当たり最低1億ドル規模の出資を行っている。
トランプは、2018年6月にウィスコンシンで行われたフォックスコンの新工場設立セレモニーで次のように述べた。「マサが約束した500億ドルの対米投資は、実際には720億ドルに到達しそうだ。金額はさらに増えるかもしれない」。フォックスコンの創業者でビリオネアのテリー・ゴウは、孫の親友だ。
ソフトバンクは、トランプが述べた金額を否定しているが、ホワイトハウスはそのことについて何もコメントしていない。
金額の認識に違いはあっても、ビジョン・ファンドが数百億ドルを米国のスタートアップに投資したことは事実だ。ビジョン・ファンドが巨額投資をしたことで出資先の評価額は高騰し、10億ドルを超える企業が続出した。ビジョン・ファンドの最大の出資先はウィーワークで、報道によるとソフトバンクと合わせて185億ドルを投じている。ソフトバンクは、2018年初めにウーバーに約90億ドルを出資している。
これらの巨額出資は、雇用も創出するはずだった。しかし、現状では5万人の雇用創出を達成するのは困難な状況だ。孫が好むロボティクスやAIを手掛けるスタートアップは、そもそも会社の規模が小さい。ウーバーは例外で、全米で1万3000人以上を雇用している。しかし、ビジョン・ファンドが出資するスタートアップの大半は、従業員数が200人程度だ。
約束の期限まであと1年
フォーブスは、ソフトバンクのポートフォリオ企業の中から米国に本拠を置いているか、米国に拠点がある企業を50社選び、雇用状況についてヒアリングを行った。多くの企業はコメントを拒否したが、回答した企業はどれもゆるやかに増加となっている。
例えば、ペンシルバニアに本拠を置くAI企業「Petuum」は、2017年10月にソフトバンクが出資して以降、これまでに120名増えたという。また、英国のスタートアップ「OakNorth」は、ソフトバンクから資金を調達してから従業員数は世界で750名に増えたが、米国では4名から23名に増えただけだという。