引退後、何をするのか──巻誠一郎が語った、セカンドキャリアへの思い 


選手って一番を目指していくためには凄く尖っていないといけないと思っていて。僕も若いときはピッチの中でよく揉めてました(笑)。取材などで人と話をするのも関心がなかったですし、色んなものと距離を置いていました。

僕は特にストライカーだったので、誰かのためにプレーはしますが、最後はゴールを奪うために研ぎ澄まされた感覚が必要。だからこそ、社会性を持たなかったのは正解だったと今でも思っています。ただ、ある時期からは、変換する能力を養うためにも社会と繋がっておかなければいけない。そこは自分の経験としても、失敗した部分のひとつですね。

尖らせたい反面、社会性を持ってサッカーに携わることが出来ていれば僕はもっと良かったのかなと思ったりもします。もちろん、尖っていなければ、サッカー選手として日本代表に選ばれてなかったかもしれないので難しいところではありますが(笑)。

先に結論を言ってしまえば、僕が考えるサッカー選手として社会との繋がりの持ち方は、ボランティアなど、誰かのために力を発揮することが正しいのかなと思っています。そういう繋がりを持ち続けることが僕が導き出した答えですね。



海外での経験が自分の価値を考えるきっかけに

海外に行って自分の価値観は大きく変化しました。海外で感じたのは、誰も僕のことを知らないということです。人口が約100万人のロシアのペルミという街に行きましたが、あとで政府に調べてもらったところ、当時、この街に日本人が僕一人だったんです。

日本では誰かがサポートしてくれて守られた空間にいましたが、代理人も通訳も付けずに1人でロシアに行き、食事のメニューも写真を見て決めていました。日本では恵まれていたんだな、と思うと同時に、とサッカー選手の価値を有効に使わないといけないと感じました。

日本人は自分の“ネガティブな部分”が心の中に残り、自分の出来ることを主張しない。どちらかというと、出来ないことを克服するために黙々と努力する。

ただ海外に行くと周りは自分の長所をアピールし、主張します。中には出来ないことも出来ると言います。とりあえずやってみて、出来なかったらやっぱり出来なかったというポジティブな文化です。そこに日本との違いをすごく感じましたね。
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文=新川諒 写真=小田駿一

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