ビジネス

2019.12.16

なんなんだこのCMは? 反響を生みドライブさせる日清食品の「すごい会議」

日清食品 代表取締役社長 安藤徳隆


徳隆メソッド、そのブランドコミュニケーション施策の極意


Forbes JAPAN(以下、F):本当ですか? 自社でほとんど生まれているというのは。

安藤徳隆(以下、安藤):ブランドコミュニケーションの約9割を社内で企画しています。多くの会社では広告代理店さんから出てくるA・B・Cの提案のどれかを選ぶというやり方が一般的でしょう。

例えば、カップヌードルのCMシリーズ「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」で言えば、「ONE PIECE」とコラボする、キャラクターデザインは窪之内英策さんにお願いする、『‟麦わらの一味“が高校生活を送っていたら』をコンセプトに青春アニメ化する、パラレルワールドの物語を1年かけて描いていく。と、ここまで自分たちで決めてしまう。

F:スタッフィングは?

安藤:「ONE PIECE」の原作者である尾田栄一郎さんやイラストレーターの窪之内英策さんなど、色々な方を巻き込むプロジェクトですから、関係者を取り仕切りながら、われわれのイメージを完璧にアウトプットしてもらえるクリエイターさんが必要です。ただ、アイデア、コンセプト、スタッフィングなどはこちらで決めて、『では、作ってください』とお願いする形です。クリエイティブエージェンシーの機能が社内に半分くらい内包されているようなイメージです。

F:基本アイデア、コンセプト、スタッフ、全部社内で……

安藤:あくまでも“モノ”を売るためのコミュニケーションであって、作品作りとは違います。たとえばカップヌードルの「謎肉増量 篇」は、ケイン・コスギさんが「謎肉」に扮して増殖していくカオスな映像が展開していき、最後の数秒に素人が作ったパワポのような静止画を1枚入れています(前ページの埋め込み動画参照)。きれいじゃないし、違和感があるからこそ、逆に印象に残るんです。

カップヌードルのCMで使われた素人が作ったような画像
カップヌードルCM「謎肉増量 篇」の最後。「止め」として商品のカットをいれることで見流し感を抑え、完結する印象がある。

F:まさかのおじさんピーターパン。吹き出しの適当感、ゴシックの陳腐さもまた潔い。激しい動画からのこの1枚は印象深い。

安藤:あえて動きのない商品カットを「止め」として最後に入れたのは、やはりモノを売りたいから。『なぜ、ピーターパンなのか』ということにも理由があって、面白いこと、ユニークなことにチャレンジし続けるために、日清食品はずっと子どものままでいたいと、そんなメッセージも込めている。それに、こうした仕掛けをたくさん仕込んでおけば、営業の担当者がお得意先様との商談で話題としても使えるんですよ。

F:他方、御社では「7 SAMURAI」などのクールなCMも印象深い。ここ最近で言えば、八村塁さんを起用したCMもありますね。

安藤:クールなCMは、年1回までですね。

F:そうなんですか?

安藤:真面目なものを作るは、どちらかというとグローバル展開を意識した場合が多いですね。内容を尖らせすぎると海外では通じないケースもありますし、カップヌードルは日本の企業が生み出した日本発のブランドだということを、できるだけ多くの国で理解してもらえるようなブランディングを展開しています。

例えば、ハードボイルドコミックに仕立てた社史や、浮世絵をモチーフにしたアニュアルリポートなども同じ視点で制作しています。もちろんクールな中にも、日清食品らしさをどれだけ印象付けられるかにはとても気を配っています。

日清食品の社史とアニュアルレポート
(写真左)創業者である安藤百福をサムライに見立て主人公としたハードボイルドコミックで社史を作った。フィクションとして演出を加えた箇所にはわざわざ正確な情報を欄外に補足するなど、細かい配慮も。(写真右)英語版の年次報告書であるアニュアルレポートは海外を意識し浮世絵仕立てに。こちらは世界的なアニュアルレポートコンテスト「International ARCアワード」で最高賞を獲得した。

F:御社の資料では主要4ブランド(チキンラーメン、カップヌードル、日清焼そばU.F.O.、日清のどん兵衛)で、若年層の喫食率が全て前年を上回っています。この結果は、今まで展開されてきた様々なマーケティング施策が正解だったことを示すことになりますね。

安藤:日清食品では、マーケティング戦略を「空中戦」「地上戦」「サイバー戦」の3方向で展開しています。「HUNGRY DAYS」シリーズや「謎肉増量 篇」など、日清食品らしいエッジの効いたテレビCMは「空中戦」。店頭での営業活動、販促活動が「地上戦」。そして、その2つをつなぐ役割を果たすのが「サイバー戦」です。

一度見ただけで理解できないCMがネットで再視聴され、人に話さずにはいられないCMの話題がSNSで拡散し、小ネタ満載のCMを分析するようなまとめサイトができる。「サイバー戦」では、話題が自走し、情報が自然増殖する効果を狙っています。これらが三位一体になれば、1本のテレビCMが何倍もの効果をもたらすことになるのです。
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文=坂元耕二 写真=平井敬治

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