装幀家と映画監督の意外な共通点。『つつんで、ひらいて』広瀬奈々子監督に聞く


──10年ほど前、ある編集者に「本が売れるのは、表紙3割、タイトル3割、著者の著名度3割、中身1割」と言われたことがあります。中身、つまり内容がどれだけ素晴らしくとも、それを伝える手立てが徹底的に練られてなければ、本は売れないのだと。本作を見て、タイトルをどう表紙やカバーで表現するかも含め、「表紙とタイトルを足して、装幀6割だな」と思いました。

広瀬 確かに装幀って中身を言い表すというか、ある種の批評にもなっているんですよね。菊地さんがよく装幀されている詩人の蜂飼耳(はちかい・みみ)さんも、「私がつくったのはあくまで本文だけ。その外側をつくる装幀家との“得体の知れない関係性”の中で、本は成り立っている」というようなことをおっしゃっていました。私が電子書籍に興味がないのは、デジタルだとその“得体の知れない関係性”が感じられないからだと思います。

──是枝裕和監督も先日のインタビューで「読者として本が紙と切り離せないのと同じぐらい、観客兼映画監督として、映画は映画館と切り離せない」とおっしゃっていました。

広瀬 確かに映画館というのは、劇場の匂いや椅子の硬さやいっしょに見た人と作品がともに記憶に刻まれますね。本も手触りがあり、風合いがあり、重さがあり、インクの匂いがある。立体物とともにある体験なんですよね。その立体の感触を確かめながらページをめくっていく、というのが至福なんだと思います。

菊地信義
印刷所にいる菊地と担当編集者たち。©2019「つつんで、ひらいて」製作委員会

本作を見るとわかるように、菊地さんの装幀はすべて手作業です。そして手作業の時代は終焉に向かいつつある。ところが、菊地さんはそこでしんみりせず、自分の装幀人生を振り返り、「これからは第4期だ」と言うんです。「本はこれからも絶対になくならない。これから僕は本のマーケティングをひっくり返すんだ」と飄々と言って、トレスコープ(写真や文字を拡大縮小してトレースする機械)もお弟子さんの水戸部功さんに譲って。

本作の宣伝活動となるトークイベントやインタビューでも、本の魅力と装幀の仕事の重要さを一生懸命に語ってくださっています。私が菊地さんを利用したつもりでいたのに、気づけば利用されているなって(笑)。いつだったか「僕は装幀のセールスマンなんだよ」とおっしゃっていましたが、この映画を本当にそういう風に捉えられているところが、また菊地さんに一本取られてしまったと、つくづく思います。


広瀬奈々子◎1987年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業後、2011年より制作者集団「分福」に所属。是枝裕和監督、西川美和監督のもとで監督助手を務め、テレビドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(12)、『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)、『海よりもまだ深く』(16)、『永い言い訳』(16)に参加。2019年1月、映画『夜明け』で映画監督デビューを果たした。

映画『つつんで、ひらいて 2019年12月14日(土)よりシアター・イメージフォーラム(東京)ほか、全国順次ロードショー

インタビュー・構成=堀 香織

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