経済・社会

2019.12.13 12:30

川崎市ヘイトスピーチ禁止条例、刑事罰はなぜ「国外出身者」に絞られるのか


川崎市では、2013年5月から2016年1月末にかけて、計12回にわたって、JR川崎駅の繁華街を中心に、国外出身者の排斥を訴えるデモが行われた。この間のデモは、2016年6月に施行された国の「ヘイトスピーチ解消法(通称)」の制定のきっかけとなった。

川崎市の福田紀彦市長の下、こうした事象が繰り返し起きないようにと、2016年から対策に乗り出した。その中で、「ヘイトスピーチ解消法」の法律の範囲内で、人権全般の尊重を見据えた条例づくりを目指してきた。

川崎市福田紀彦市長
川崎市議会に臨む福田紀彦市長(右下)

日本人に対する差別はどうなる?

2019年6月に、市は条例の素案を公表。その後パブリックコメントを募集すると、1カ月間で市内外から18243通もの意見が寄せられ、この条例に対する全国的な関心の高さが示された。

その中には「日本人に対するヘイトスピーチを容認するのはおかしい」や「日本人へのヘイトスピーチも罰すべきである」と行った意見が多く見られた。

確かになぜ、「本邦外出身者」つまり、日本以外の国や地域の出身者に対象にした差別に限って、刑事罰が下されるのだろうか。

市の担当者に尋ねると、「ヘイトスピーチ解消法」の定める範囲内での条例であることと、先述のヘイトスピーチの定義(特定の国の出身者であることや、その子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとするなどの一方的な内容の言動)に準じたものだと回答した。

だが、疑問は残る。憎悪表現の中には、仮に受け手が日本人であったとしても、特定の国や民族に関する意見や思想を示した人に対して、「〇〇人は国外追放だ」「〇〇人は殺す」などと迫る発言が見られる。特にインターネット上における「炎上」現象には、その例が多いだろう。

川崎市はパブリックコメントで多数寄せられた意見を重く受け止め、今後は国に対する働きかけなども検討する。

市としても「本邦外出身者への差別」以外にも、いかなる差別的な言動も許されない、とのメッセージを強く発信し、市民や事業者に対しても「レイシャルハラスメント」防止の徹底に努めていくという。

福田紀彦市長は「川崎は元祖・多様性の街。これからも差別を生まない土壌づくりをしていくべき」と意気込みを語った。

「この街からあらゆる差別を無くしていく決意を新たに、今日がスタートとして人権尊重のまちづくりの取り組みを始めたい」

この差別を禁じる条例は、刑罰を伴い、より厳しい抑止力として期待されている。市長ならびに市関係者だけでなく警察を含めて、安全かつ慎重に運用されるべきである。条例全体の総則にあるように、人種、国籍、民族だけでなく、信条や年齢、性別、障害の有無などにも関わらず、誰もが安心して暮らせる社会づくりの機運となることを願ってやまない。

川崎市
川崎駅前の街並み(Shutterstock)

文・写真=督あかり

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