永田は、内発的好奇心で生きている人たちの例として、アーティスト、サイエンティスト、そしてアントレプレナーをあげた。アーティストやサイエンティストの自己表現や自己の好奇心、真理の追求といった内発的好奇心が強いことは想像に難くない。
では、なぜアントレプレナーも同じなのか。
「アーティストやサイエンティスト、アントレプレナーは、それぞれ内発的好奇心を軸に生きていることは共通しています。ただ、プロセスや結果が違う。アーティストは表現した作品が世の中に出たら、それで終わりです。サイエンティストは、真理をひたすら追い求めるプロセスを重要視する。アントレプレナーは、社会を変えるという内発的好奇心に支えられていて、その結果は、自分ではなく、社会に帰属します」
ユーグレナCOO、リアルテックファンド代表永田暁彦
慶應義塾大学SFC環境情報学部長であり、アーティストでもある脇田は、自らが稼ぐこと、生きることに対するの考えをこう述べた。
「学部長には、たまたまなっただけだと思っています。アーティストを生業にしているのは、納得して死を迎えるため。5年前、癌を患い、それからいかに納得して死ぬかを考え始めました。そして、退院するときにはアートをやろうと決意していたんです」と当時を振り返った。
アートは、お金を得るためではなく、自分らしく生きるための選択だったという。
慶應義塾大学SFC環境情報学部長、アーティストの脇田玲
トークイベントの終盤、あるひとりの参加者から「稼ぐの未来とは、結局どういうことなのでしょう」と鋭い質問が浴びせられた。
この質問に対し、九法は「未来が決まっていて、それに向けて準備するのではなく、個人が主体的に稼いで生きていくということではないでしょうか」と答えた。
永田は「貨幣主義に移行し、稼ぐことが、お金を得るという言葉に変わってしまった。しかしこれからの時代は、自分の価値や時間を変換することに稼ぐという言葉の意味合いが変わっていくと思います」と主張。
最後に、脇田は「我々は自分の意思でお金と関わっているように考えていますが、実は利己的遺伝子と同様に、お金が私たちに寄生し自らを増殖させる目的で私たちの身体を使っているのではないでしょうか」と締めくくった。
人類史を見渡せば、バブル期から現在まで、これほどお金に翻弄された時代も珍しい。
また、現在のようにインターネットで常に物欲やSNS上でのいいね!などの承認欲求を刺激される時代もこれまでになかった。物欲より、コト消費にお金を費やすと言われる現代の若者たちが老年期に入る頃には、「稼ぐこと」の意味と目的は、どう変わっているだろう。