歌舞伎町が嫌われる理由「ぼったくり」、背景には夜の戦略があった

私達のグループは全店で明瞭な会計ルールを実行した。そこで起きた問題とは


夜の店の“戦略”を撤廃したが……

私達のグループは、この水商売特有とも思われる会計の複雑さ故の、不明瞭感を払拭させるために、サービス料というルールを撤廃した。同時にテーブルチャージ、指名料という物もすべて撤廃し、メニュー表に載せる金額=会計になるようにした。

グループ全店で明瞭な会計ルールを実行したところ……起きた問題は「高い」だった。

お客様からも「高いから注文したくない」、ホストからは「高いからお客様にお酒の催促がしづらく売り上げが上がらない」と言われたのだ。おかしな話である。料金は変わっていない。変えたのは表記だけだ。

メニュー表示は確かに高くなる。今まで100000円と表示していたシャンパンを135000(+税)という表記になる。それが「高い」イメージを与えるから嫌だと言うのだ。

ホストクラブに行くお客様は、他のグループのホストクラブに行く方がほとんどだ。それ故、メニューをパッと見て他のお店に比べて高いという印象を与えてしまう。となると、そこから自店の料金説明をすることが、会話の流れを悪くしてオーダーに辿り着きづらい。そんな声が現場のホストたちから上がった。

店の常連さんたちは次第に慣れていくが、他のお店に通い馴れていたお客様からすると、逆にわかりづらい。そしてホスト達にとっては無駄な手間になってしまったのだ。

その結果、グループ内でも新しく出した店舗二軒は、また昔のわかりづらい会計制度を採用している。

金額でみる夢があるのか、それとも…

うちの会計ルールに慣れれば、うちの方が断然いいと思う。でも他社と争う上で、他社に通っているお客様に来てもらうため、『夜の戦略』に寄せたのだ。

ある大手グループの会長が「サービス料を失くしたら絶対に流行らない。夢を見させないといけない」と言っていた。「安いと一瞬思わせることが夢?」と私には意味がわからなかった。

でも、もしその言葉を肯定的に捉えるのであるならば、現実的な金額とは違う金額で物の値段を考えるということが、非現実的だということだろうか? 高いお金を払ってホストと仲良くなるのではないと少しでも思って貰うためだろうか?

ビジネス的な観点からすると、最初に提示された金額から結局オプションを付ける結果になることはよくあることだと思う。

そう実感したきっかけは父の葬儀だ。私たちは棺や骨壷の良し悪しなどわからない。でも、皆さまこちらをお選びになります。と言われたら、そちらに流れてしまう。なぜなら、親族が亡くなってすぐに冷静な判断なんて出来ないからだ。

「あーこうやって判断能力が弱い時に決断を迫るのは、我々が酔っぱらっているお客様とボトルを入れる、入れないとせめぎ合う精神状態の時と似ているんだろうな~」と当時はしみじみと思ったものだ。

「5000円で済むわけないじゃないですか」

最初の話に戻そう。私は後輩2人とバーで朝4時過ぎまで飲んでいた。もう3人ともべろべろだ。タクシーを捕まえる大通りまでずっと客引きが朝キャバを勧めながらついてくる。よくあることだ。適当にあしらう。

「5000円で消費税・サービス料込々でお願いします!」としつこい。段々面倒くさくなり、何故かこういう時は自虐的な気分になり、皆帰りたいし誰も行きたくないのに、我々は1時間5000円(税・サービス料込み)で朝キャバに行くことになった。

バーで熱く語っていた延長で語り続けた。女の子は代わる代わる席に着く。「ドリンク飲んでいいですか?」とそれぞれの隣に座っている女の子が催促する。我々も同業者だ。「水飲んでいなよ」なんて冷たいことは言えない。

自分達も普段言われたら辛い言葉だ。みんないちいち会話を止めるのも面倒なので、「いいよー」と言って自分たちの会話を続ける。女の子が変わればまた一杯注文はする。みんな、恐らくお酒は入ってなさそうな可愛らしいカクテルを飲んでいた。

1時間が経って、我々は会計をお願いした。酔っていても1分でも過ぎれば延長料金が掛かることくらいはわかる。そこは気をつけていた。
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文、写真=手塚マキ

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