ノードストローム・ローカルを開設したり、店をリゾートホテルのロビーや客室まで持ってきたりするというのは、従来とは異なる発想をしなければできない。大手の小売業者にそれが難しいのは、大型の店舗には集客力があるという理由から、店舗のロケーションは自分たちの大きな強みだという信念があるからだ。
だが、そうしたアンカーストア(核店舗)は、今では大手の小売業者にとって、顧客のいる場所へ進出する方法を考えるのを妨げるものにもなっている。大手の小売業者には発想の転換が求められている。
ただ、これは大企業にとっては、カルチャーを大幅に変更することを意味し、変化の中でも起こすのが最も難しい変化である。店舗外スペースという形態を最初に試したのが、レント・ザ・ランウェイのような企業だったのは驚くに当たらない。彼らの発想は実店舗のようなレガシーに縛られていないからだ。
今回の発表から導き出される結論は、従来型の店舗形態にとらわれない発想のサーヴィスが今後、どんどん生まれてくるだろうということだ。ホテルには、小物類やアメニティーグッズくらいしかないギフトショップや、併設のショッピングモールではない、新しい小売りサービスが登場するだろう。消費者が集まってきて交流する場所、例えばイベント会場、小規模なスポーツ会場、行楽地、ビーチ、野球場、オフィス、住んでいる地区などに、商品を持ってくる店が増えてくるだろう。
ローケーションについての考え方が変わってきていることを示す例としては、レント・ザ・ランウェイと同業の米ル・トート(Le Tote)の試みも挙げられる。ニューヨークの5番街にあった床面積約6万2700平方メートルの旗艦店を今年閉店していた米老舗百貨店、ロード・アンド・テイラーを買収した同社は、よりシックなソーホー地区にロード・アンド・テイラーのポップアップストアを開設する。大型店思考から脱却して新しい発想をすれば、小売業者は自分たちの必要とする顧客にもっと近づくことができるに違いない。
私たちは小売りについて、販売チャネル(販路)という観点から考えることに慣れてしまっている。店舗はひとつのチャネルであり、モバイルはもう一つのチャネルであり、デスクトップはさらにもう一つのチャネルである、というふうに。しかし、買い物する場所で消費者を分類するこうした考え方は、もはや役に立たない。なぜなら、消費者はどこからでも買い物するようになっているからだ。
問題は、どうやったら消費者にある場所に来てもらえるかではなく、消費者はどこへ行っていて、どうやったらそこで小売業者は消費者と関われるか、ということなのだ。レント・ザ・ランウェイはWホテルとの提携を通じ、自分たちは消費者がいるところならどこにでも行く、ロケーションにとらわれないビジネスを展開していくという姿勢を打ち出した。
同時に、それには創造的な発想が必要だということも示した。今回の提携は業界の考え方が変わり始めたことをうかがわせる。ただ、それはほんの始まりにすぎない。今後、もっと創造的な発想によって、これまで想像もしなかったような場所で小売りのチャンスが生まれてくるに違いない。