スマートフォンのおかげで、どこからでもネットで買い物ができるようになって久しい。だが、小売業者が従来の実店舗を飛び出して、顧客がいる場所まで出向くというのは、これまであまり例がなかった。レント・ザ・ランウェイのビジネスはもともと実店舗に依存したものではないものの、Wホテルとの提携からは、ロケーションに対する同社の柔軟で独創的な発想が見て取れる。
そうした考え方は、小売店が顧客にリーチする上で今求められているものであり、だからこそ今回の発表は興味深い。それは、無店舗型のロケーションをうまく活用して販売を増やすやり方の端緒なのだ。こうした考え方をさらに展開していくと、さまざまな無店舗型のロケーションを利用して売り上げを伸ばす手法の可能性が大きく開けてくる。要するに、小売業者はネット上だけでなく実世界でも、店舗を顧客の元に持ってくる方策を考えなくてはいけないということだ。
リラックスし、お金を使う気があり、買い物をする時間もある消費者をつかまえるには、リゾートホテルは望ましいロケーションの一つだろう。最も良い例がラスベガスだ。そこではショッピングはリゾート体験に組み込まれていて、事実、多くの小売業者にとってラスベガスの店舗はドル箱になっている。そこから考えると、小売りのチャンスを増やす方法が見つかった場所がこれまで、リゾートホテルのほかにあまりなかったのは驚くべきことだ。
同様に、ホテル内への出店を増やしたという小売業者の例をあまり聞かないのも不思議だ。ホテルを訪れて、広々としてスペースに余裕があるロビーを目にすると、筆者はいつも、小売業者はなぜここで地元に関連した製品を売らないんだろうと首をかしげてしまう。
食品業界はトラックで運び込んで商品を売っているけれど、ほかの小売業者は自分たちにふさわしい売り方を考え出す必要がある。レント・ザ・ランウェイとWホテルの提携は、ホテルに隣接した巨大なショッピングモールに出店しなくてもうまくいく可能性を示唆している。無店舗型のロケーションで販売を促進する創造的な方法は、ほかにもいろいろあるはずだ。
例えば米百貨店のノードストロームは、「ノードストローム・ローカル」と呼ぶ店舗をニューヨークとロサンゼルスに計5店開設している。これらの店は在庫を持たず、顧客による商品の取り寄せや受け取り、配送、寸法直しなどを手助けするサービス拠点となっている。これもまた、顧客を店に来させるのでなく、店を顧客に持ってくるという形態の一つだ。そのおかげで、ノードストロームの大型店が近くにない人も、実際に訪れずしてそれを利用することができる。