馬鹿がつくほど正直で涙もろい 闘莉王の引退の言葉


「お疲れさまでしたという言葉以外に見つからない。いままでのJリーグを見渡しても闘莉王以上の存在感を放った選手はいなかったし、これからも出てくるかはわからない。名前の通り最後まで、すべての力を出し切って戦ってくれたことに、僕からもありがとうと言いたい」

中澤さんと同じく記者会見にかけつけたグランパスおよび日本代表時代の盟友で、昨シーズン限りで引退した楢崎正剛は、このように闘莉王をねぎらい、大きな花束を手渡している。

「自分が真っ直ぐに生きてきたからかどうかはわからないけど、本当にありがたいことに数え切れないほどの、兄弟のような仲間ができました」

喜怒哀楽を共有してきた中澤と楢崎のサプライズ登壇に、こう感謝の言葉を述べながら、再び涙腺を緩ませた闘莉王は後に続く後輩選手たちへ、自身の哲学を反映させたメッセージを託すことも忘れなかった。



「いまは綺麗なサッカーばかりで、そういうところに進化していっている。だからこそ泥臭く、多少技術が優れていなくても、僕みたいに一生懸命プレーして、サポーターに喜ばれるような姿勢をなくさないで欲しいし、そういう気持ちを伝えられる選手が消えていって欲しくない」

今後はサッカー解説などを務めながら、生活の軸足は、年老いた両親、そして照子さんが暮らすブラジルに置く。引退を反対され続けた父親のパウロ隆二さんから「今回、初めて『帰ってこい』と言ってくれたんですよ」と、記者会見で嬉しそうに明かした闘莉王は、唐突にメディアに対してもその場で頭を下げている。

「報道のみなさんには、長い間、取材に対して非協力的だったこともあるし、申し訳ない態度を取ったこともある。たくさん迷惑をかけたのにもかかわらず、こんなに大勢の方々に来ていただいて、本当にありがとうございます。そして、本当にすみませんでした」

祖父母からは「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という、日本のことわざも教えられながら育った。成功するほどに謙虚にならなければいけないと、頭のなかでは理解していても、現役時代は闘う姿勢のほうが常に上回ってしまったのだろう。実際、近寄りがたいオーラを何度も感じたことがある。

だからこそ、引退会見でかぶってきた仮面を外し、馬鹿がつくほど正直で涙もろい、日本人の琴線に触れる素顔をさらした。J2を含めた公式戦で104ゴールと、ディフェンダー登録選手で初めて3桁に到達させた19年間のプロ人生。記録にも記憶にも色濃く残る男は、個性とポリシーを前面に押し出す生き様を笑顔に変えて、胸を張って表舞台を去っていった。

連載:THE TRUTH
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文・写真=藤江直人

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