アメリカ疾病管理予防センターによると、この自殺率が、2007年から2017年の10年間で24%も上昇した。ことに10歳から24歳の青年層の自殺率にいたっては56%も上がったという報告が出され、アメリカ社会は驚きを持って受け止めている。
青年層では他殺も増えており、こちらはとても重苦しいが、そちらのほうの増加率は18%と3分の1で、自殺率の増加だけ飛び抜けている。この状況について、同センターの統計士であるサリー・カーテン氏は、かつては殺人による死亡率が自殺率を上回っていたのに、この10年で逆転したと記した。
いまや、自殺が事故死(自動車事故または薬物中毒などによる)に次いで2番目の死亡原因となり、アメリカ社会も戸惑いを隠せない様子だ。
競争社会の激化が原因か
若者の年代をもう少し細分化してみると、20歳から24歳のグループが、人口10万人あたり17人と最も高い自殺率だが、増加傾向で見れば、15歳から19歳のレンジでは倍近く上昇し、10歳から14歳のレンジをとるとこの10年で約3倍に跳ね上がっている。
精神医学の専門家は、ソーシャルメディアの過剰な広がりが自殺リスクを押し上げているとし、近年には、具体的にスマホ利用と不眠症やうつ病、睡眠障害との相関性を証明した研究もあるという。
しかし、ソーシャルメディアをひとくくりにして、この自殺率増加の「主犯」とすることには無理があるように思える。充分な標本数と確立されたリサーチ手法によってこの相関性を証明した研究を、筆者は寡聞にして知らない。
ウィキペディアにも、この相関についての独立したページまで立ちあがっており、社会での関心の高さを反映しているが、SNS上でのいじめや、自殺を奨励するサイトの悪影響の記述はあっても、一般の若者の通常のSNSのユースが、自殺と相関性を持っているという説得力ある記述はない。
別の専門家は、若者の宗教離れを指摘し、宗教による精神の救済がないことが自殺率増加に結びついているという人もいれば、競争社会の激化が原因と指摘する人もいる。
さらには、ブルームバーグ社などは、健康保険会社(民間)が利益を出すために、心療内科や精神科の受診に対してなにかと制限を設けて支払いを拒み始めたことで、うつ病などの症状が悪化し、自殺に至る人が多いと指摘している。