昨年、選考委員の夫の性的暴行疑惑という醜聞によって発表が見送られた2018年のノーベル文学賞は、ポーランドの作家、オルガ・トカルチュクさんが受賞した。歴代の受賞者を見ると、化学賞のマリ・キュリー、文学賞のトニ・モリスン、平和賞のマザー・テレサやマララ・ユサフザイなど女性受賞者もチラホラ見られるが、やはり圧倒的に男性が多い。
そして、こうした栄えある賞が発表されると当人はもちろん、既婚者ならばその配偶者……それは大概女性だが……にも注目が集まるのが常である。
授賞式も配偶者同伴であり、スピーチの最後はしばしば、研究あるいは執筆生活を影で支えてくれた妻への感謝の言葉で締め括られる。それは配偶者にとっても、これまでの苦労が報われたと感じる瞬間なのだろう。
しかし、もし夫の業績が、言葉の真の意味で、妻なくしては成立しないものだったら……。そんな仮定を現実として描いたのが、『天才作家の妻 40年目の真実』(ビョルン・ルンゲ監督、2017)である。
かなり説明的な邦題に対し、原題は「THE WIFE」とストレートだ。主役を演じたグレン・クローズは第91回アカデミー賞主演女優賞、他の様々な賞にノミネートされるなど、その高い演技力に話題が集まった。
第91回アカデミー賞に登場したグレン・クローズ(Getty Images)
ノーベル文学賞の賞レースに名前の上がっている著名作家ジョゼフ・キャッスルマン。真夜中だがどうにも寝つけず落ち着かないジョゼフが、寝ている妻ジョーン(グレン・クローズ)に性的なちょっかいを出す場面がいささか滑稽だ。そしてついに来た受賞の通知に、大きな喜びを分かち合う夫妻。
だが、出版人や記者を招いた自宅パーティでの、「彼女(妻)なくして私はいない」というジョゼフのスピーチと、少し居心地の悪そうなジョーンの表情、その後の「ジョー!」(ジョゼフの愛称であると共にジョーンの愛称でもある)という皆の乾杯の声は、徐々に明かされていく真実の重要な伏線となっている。
以降、ストックホルムに飛んだ夫妻の数日間と、二人の出会いから若き日の結婚生活という過去が、交互に物語られていく。