米国人の「税嫌い」、奴隷制時代にルーツ MIT教授らが新著

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米国の最富裕層は十分な税金を払っていないという見方は、幅広い政治的な支持を得ている。民主党の何人かの政治家や大統領選の候補者は、さまざまな富裕税を強力に提唱してもいる。

とはいえ、米国ではこれまで、資産への課税は巧みにかわされてきた。ドナルド・トランプ政権と共和党による最新の税制「改革」もそうだ。それはむしろ、富裕税とは真逆のものだった。

なぜなら、その税制改革法では、富裕層の所得税率は引き下げられ、法人税率も引き下げられたからだ。その結果、すでに大恐慌以降で最悪の水準にある所得格差は一段と広がることになった。

カリフォルニア大学バークレー校の経済学者、エマニュエル・サエズとガブリエル・ズックマンの新著『The Triumph of Injustice: How the Rich Dodge Taxes and How to Make Them Pay(不正義の勝利:富裕層の税逃れの仕方と彼らに税を支払わせる方法)』は、米国の富裕層の間で広がっているとみられる「税嫌い」の起源をたどるのに役立つ一冊となっている。

サエズとズックマンはこの本の中で、資産への課税を忌避する米国人の態度は、人間が拉致され、「財産」として売買された奴隷制時代に一端があると論じている。

彼らによると、奴隷制度があった時代の米国では、北部の州ではかなり複雑な租税制度が構築されていたのに対し、南部の州の制度はもっと原始的で、地元政府は取得への課税という手段によって収入を増やそうとはしなかったという。

サエズとズックマンは歴史家のロビン・アインホーンを引用しながら、「この(税に)後ろ向きの姿勢と奴隷制度との深い結びつき」を明らかにしている。彼らはこう書いている。

「南部の奴隷所有者は恐怖に取りつかれていた。奴隷を所有しない多数派の人たちが課税によって奴隷制度を弱体化させ、最終的にはそれを廃止してしまうのではないかという恐れだ」

「彼らが特に恐れていたのは資産への課税だった。人口の4割の人が『財産』と見なされていた時代、奴隷を所有するプランターにとって財産税は自分たちの生存に関わる脅威だった」

米国の政治は、もう少し文脈や歴史を参照した方がはるかに理解しやすくなるのではないか?

彼らは言う。「米国における政府への嫌悪感の源は複雑だとはいえ、過去数世紀にわたって、南部の奴隷所有者ほど税嫌悪の来歴をよく物語ってきたものはない」

ほかの経済学者や活動家の研究によれば、米国で奴隷制度に由来する社会制度への反感は税への嫌悪に限らない。例えば、国民皆保険をはじめ、社会保障制度の拡大への反対は破壊的な政治示威行動からも生まれており、それを通じて広がっている。

編集=江戸伸禎

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