しかし、トランプ大統領による米中貿易戦争が終わりのない深みにますますはまりつつあるなかで、投資家たちが危険を承知で見て見ぬふりをしている「忘れ去られた被害者」がいる。そう指摘するのは、米金融サービスBMOキャピタル・マーケッツ(BMO Capital Markets)のチーフエコノミスト、ダグラス・ポーター(Douglas Porter)だ。それは、世界第2位の経済大国である中国の消費者のことだ。
ポーターは、クライアント向け調査リポートのなかで、「アメリカが中国からの輸入品に次々と関税を課すことによって犠牲を強いられるのは、アメリカの消費者、アメリカ企業、そして中国の輸出業者だろうというのが一般的な見方だった」と述べている。
「これまでのところ、アメリカの消費者はおおかた影響を免れているようだ。ただし次回の関税案は、消費財にこれまで以上に大きく響くことになるだろう。そして、中国の消費者については、影響を免れているとは言えない」
「中国の消費者こそ、貿易戦争で最大の打撃を受けたグループだ。貿易摩擦が始まったとき、彼らの声はまったく考慮されない状態だった」とポーターは主張する。
景気予測の専門家たちにとって最大の不確定要素のひとつは、中国の景気がどのくらい後退するかだ。異常なまでに安定した中国の国内総生産(GDP)の数値を信頼すべきではないことを、専門家たちは理解している。
消費者が打撃を受けることに起因する景気後退が進めば、アメリカの対中国経済政策における目標とされるもののひとつが危うくなってしまうだろう。その目標とは中国を、輸出主導型の経済モデルから、より消費主導型の経済へと移行させることだ。
アメリカの企業に関する新たな調査によると、多くの企業は、米中貿易戦争が悪化した場合の予期せぬ事態に備えた対応策を考えていない。とはいえ、貿易戦争の悪化は、ほぼ避けられないものに見える。なぜなら、実質的な合意成立という点に関するトランプの実績は見るも無残なものだからだ。せいぜい、無意味な記念写真を撮影しただけだ。
ダートマス大学の経済学教授ダグラス・アーウィンと、ピーターソン国際経済研究所のチャッド・ボウンは、国際政治専門誌『フォーリン・アフェアーズ』2019年9月号に寄稿した論文で、「国際的な貿易ルールを軽視することで、トランプ政権は、世界におけるアメリカの評判を貶めた。その結果他国政府は、アメリカと同じやり方で独断的に貿易を規制しようと考えるようになってしまった」
「ある意味、もう後戻りはできない」
トランプ政権はまた新たに、手当たり次第の関税攻撃に出た。気ままな貿易戦争の次の相手はブラジル、アルゼンチン、フランス。それらの国から輸入される、鉄鋼をはじめとした製品に対し、一方的に関税を課すつもりだという。