「フェイスブックはもはや単一の存在ではなく、アプリのファミリーを形成しつつある」
先週開催されたファイスブックの開発者会議、F8の壇上でマーク・ザッカーバーグはそう宣言した。ザッカーバーグが目指すもの、それは言い方を変えれば、アプリを軸としたコングロマリットであり、複数の触手を持つ巨大な生命体と言えるかもしれない。
WeChat や LINEの成功を追うように、フェイスブックは「メッセンジャー」にそのリソースを注ぎこんでいる。そのゴールは様々なアプリの連合体を仕上げることであり、その事は同社が買収済みのWhatsApp(190億ドルで昨年買収)やInstagram(10億ドルで2012年に買収)との連携の強化にもつながる。
ザッカーバーグの狙いはメッセンジャーを、単なるアプリを超えたオペレーティングシステムに発展させること。ゲームやエンタテインメント、決済機能やビジネスアカウントも備えた、総合的なモバイルのプラットフォームに育て上げることだ。
今やメッセンジャーアプリはフェイスブックアプリよりも高い成長を遂げている。
調査会社、GlobalWebIndexのデータによると、昨年のメッセンジャーアプリの成長率は50%。ファイスブックアプリの23%を大幅に上回った。ネットユーザーの利用率を見ても、メッセンジャーアプリ(8.7%)のそれは、フェイスブック本体(7.4%.)を上回る。
さらに、単純に言えば、メッセンジャーアプリには今勢いがある。昨年のグローバルでの成長率は50%に達し、それはWhatsApp (34%)の数値すら上回っているのだ。
先週の発表で最も重要なポイントだったのが、「メッセンジャー上のビジネスアカウントの設立」。企業に公式アカウントを提供することで、ユーザーへのダイレクトなマーケティングが可能になる。フェイスブックはこれを「迷惑メールを死に追いやる」施策と呼ぶが、長い目で見れば、これこそが同社に新たな収益をもたらすのは確実だ。
同社はその最初のパートナー企業(通販サイトのEverlane とzulily)たちから、アカウント設立の代金はとらないと発表した。しかし、WeChatが同じ試みでアジアで大成功を収めた今、同社が今後、公式アカウントを収益源とみなすのは確実だろう。
メッセージアプリ「Kik」の創業者、テッド・リビングストンは「中国では今や、通常の公式ウェブサイトを超える数の公式アカウントがWeChat上で日々生まれている」と語る。Kikは昨年からビジネスアカウントの提供を開始。企業がチャットボットでユーザーと対話する手法が、マーケティングの分野で有効であることを証明した。
フェスブックはこれと同じことをメッセンジャーで行い、さらにInstagramやWhatsAppに同様の機能を広げていくと見られている。
しかしながら、興味深いことに、ザッカーバーグは傘下のInstagramやWhatsAppに、このやり方を押し付けてはいない。買収当初の約束を守り、彼は買収した2社に「やりたいようにやらせる」スタンスを貫いている。何故ならば、この2つのアプリのユーザーの70%は米国外のユーザー。当面は、アプリ自体を磨き上げ、グローバルのユーザー数を伸ばすことが優先課題と考えているようだ。
WhatsAppの役割は、コミュニケーションツールとしての立ち位置をさらに強固なものに仕上げ、従来の電話会社に対抗する存在となることだ。WhatsAppはあらゆる電話で利用可能で、フィーチャーフォンがメインの途上国でも広く使われている。現状ではテキストの送信しかできないが、音声通話にも対応すれば、スカイプを駆逐する存在になる可能性もある。
まずはメッセンジャーから始まったフェイスブックの新戦略は、やがてWhatsApp や Instagramも巻き込み、世界に広がっていく。
その試みが成功し、ユーザーが慣れ親しむようになれば、フェイスブックは確実に新たな収益源を構築できるだろう。そしてその成否は、ここ1、2年のザッカーバーグの手腕にかかっている。