ただ、マスターカードのロゴ刷新のポイントは、ブランド名を取り除き、赤の円と黄色の円のみにするという大胆な策に出たことだ。そこには一体、どんな意図があるのか。
(上が旧ロゴ、下が新ロゴ)
来日したマスターカードのマーケティング&コミュニケーション最高責任者兼ヘルスケアプレジデントのラジャ・ラジャマナールが、ロゴ変更の狙いについてForbes JAPANに語った。
今年1月にロゴを刷新した際には多くの人に驚かれました。クライアントからも従業員からも、マーケティングやデザインのコミュニティからも大変良い評価をいただきました。
ロゴを刷新した理由は、まず「決済テクノロジー企業」から「ライフスタイルブランド」への転換を狙っているからです。そのためには、マスターカードという名前よりも、ライフスタイルブランドというコンセプトを広く浸透させたいという狙いがありました。
また、現在多くの人々にとって、タブレット端末やスマートフォンで買い物をすることは珍しくありません。
たとえばスマートフォンで買い物をし、クレジットカードでの支払いを選択した場合、利用可能なクレジットカードが表示されます。その際、スマートフォンだとロゴが表記されるスペースが非常に狭いのです。その狭いスペースにマスターカードというブランド名が入っているロゴでは、ブランド名が読めないほど小さく表示されてしまいます。さらに他社のロゴは青をベースにしたものが多い中で、赤と黄色の円が重なった弊社のロゴは非常に目立つようなりました。
ブランドをよりスタイリッシュなものにしたかった、という理由もあります。清潔でクリーンでシンプルで伝統的なものを大事にする一方で、テクノロジー先進国として未来を感じさせる。そういった非常にコンテンポラリーかつ、モダンな印象を広めたかったのです。
とはいえ、当初弊社のCEOへこの提案をしたとき「ブランドロゴにはやはり名前が必要なのではないか」と心配されました。その後、CEOや取締役会との議論が続きました。ただ、世界の8割以上の人が、ブランド名を取り除いてもマスターカードのロゴであると認識していただけたことと、これまでの「プライスレス」プラットフォームなどの取り組みが評価されたことで、ブランド名を取り除くことに至りました。
このことで、「リスクを取らなければ成功は手にできない」と社内の誰もが認識するようになったのではないかと思っています。
ロゴの刷新はリスクを伴う。たとえば、衣料品小売大手のギャップは2010年10月新たなブランドロゴを公式サイトとフェイスブックで発表したが、不評を買い、わずか6日で従来のロゴに戻した。
一方で、ロゴ刷新後、順調に業績を伸ばし、いまや見慣れたロゴになっている企業も数多く存在する。たとえば、グーグルは2015年9月青色の「g」のロゴから、4色の「G」へ変更した。ロゴの変更は、グーグルと人々の接し方の変化に対応するためのデザイン変更だったという。
また、音楽配信サービス大手・スポティファイのロゴは、現在では緑の円を背景に3つの白いラインが描かれているが、当初は白いラインではなく「スポティファイ」という社名が入っていた。
非常にリスキーでもあるロゴの刷新。マスターカードの場合、ロゴから社名を取り、黄色の円と赤の円のみというリスクを選択をしたことで、結果的に認知度を上げることに成功した。これにより、他ブランドどの差別化が鮮明になり、よりライフスタイルブランドとしてのスタイリッシュさが増し洗練された印象を与えた。ロゴ刷新の好例と言えるだろう。