長崎とシアトルに見る、スタジアムシティの未来

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久々の長崎であった。日本有数の観光地である。グラバー亭、雲仙国立公園、稲佐山からの夜景、世界遺産の教会群など、枚挙に暇がない。ところが、である。統計を見ると決して観光大県ではない。都府県別では中位、まあ、並なのだ。外国人訪問者の比率も10%未満で、東京、大阪の40%弱は別格としても、隣県の佐賀県や熊本県をも下回っている。
 
しかも、平成年間には日本の低迷を先取りするかのように、長崎経済は元気がなかった。

他方、長崎によく似た都市が米国にある。ワシントン州のシアトルだ。両者とも本土の西端に位置する港町で、漁業で栄え、国を代表する大企業の企業城下町である。水と緑が豊かな住みやすさ抜群の土地だ。坂の多い街並みも風情がある。面積もだいたい同じで、往年、シアトル市と長崎市の人口はいずれも45万人程度であった。

長崎市はこの30年間、じりじりと人口減少に見舞われ、いまや日本で転出超過人数トップの自治体になってしまった。反対に、シアトル市は6割も増やして74万人である。

シアトルにあって長崎にないものは何か。

まずは、マイクロソフト、アマゾン、スターバックス、コストコなどのユニコーン企業群だろう。シアトルはニューヨークなどの東部からも人々を呼び寄せているが、長崎には吸引力ある新興大企業がほぼない。

もう一つが、本格的なスポーツの拠点と大規模なコンベンション・センターの存在だ。

一昔前でも、シアトルでは日本人街のほど近くに巨大なドーム球場が威容を誇っていた。マリナーズの本拠地、キングドームであった。弱小メジャーリーグのマリナーズは、球場がセーフコ・フィールド、T─モバイル・パークと名を変え改築されるに従い強くなっていった。イチローの活躍は言うまでもない。

アメフトも盛んだ。ワシントン大学のハスキーズはローズボールを制した強豪であり、プロのシーホークスも人気チームである。

市の中心部に聳えるタワーが、シアトルのアイコンともいうべきスペースニードルだ。モノレールが行き交うその周辺から指呼の距離に、コンサートホールやコンベンション・センターが並ぶ。コンベンションの経済効果は既に年間400億円を超しており、近年中に1000億円に到達する勢いだという。
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文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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