長崎とシアトルに見る、スタジアムシティの未来

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大規模なスポーツ拠点もコンベンション・センターも、内外から多くの人を集め継続的な経済効果が大きい。残念なことに、この両方とも長崎は持っていない。

長崎地元財界は必死で経済の活性化に挑んでいたが、これまでのところこれといった決め手に欠いていた。そんな中で、佐世保発の企業が手を挙げた。テレビ通販で全国に名を知られる会社である。

その計画とは、債務超過に陥った長崎のJリーグチームを子会社化して、長崎市内にスタジアムを建設し、併せてコンベンション施設やアリーナ、商業施設とホテルを建設する壮大なものである。スタジアムシティ構想と称している。

その目的は、スタジアム隣接のオフィスに全国規模の企業を誘致し、スポーツマネジメントの研究教育環境を整備し、遊びと学びが体験できる子ども図書館を実現し、観光の目玉の一つである稲佐山のロープウェイを延伸することを主としている。長崎駅から徒歩圏内という抜群の立地であり、新設、既存の商業地とのシナジーも期待されている。アリーナでのエンターテインメントも楽しみだ。

この構想は民間主導で進められるが、地元財界や自治体と連携していくことはいうまでもない。今後の課題の一つは巨額に上る事業資金の調達かもしれない。そこには地域金融機関のみならず公的金融や最新の市場金融の活用余地が出てくると思う。

今後の日本経済のキモはソフト産業である。産業的には重厚長大依存型であった長崎には、より当てはまる。元来、歴史と文化、観光を売りにする土地柄でもある。これらにスポーツとコンベンション、エンタメを融合させてインバウンドを取り込めれば、「長崎モデル」が全国の範となるかもしれない。

東京に戻る機内で、旧知の経営者が囁いた。「素晴らしい計画です。他方で気になるのが東京の新国立競技場」。オリンピック後の競技場の運営が心配だ、稼働率を維持するのは至難だ、という。 「結果、一番安い方法は取り壊しだなんてジョークすらある。長崎も東京の研究を徹底的にしていただきたいな」


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研特別理事、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 「スポーツ × ビジネス」は、アイデアの宝庫だ!12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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