テクノロジー

2019.12.12 06:00

ネット創世記の中心人物 「竹中直純」とは何者か?

竹中直純。この名を見聞きしてすぐピンと来る人は、ネットとの付き合いがそうとう長いか、そうとう深いか、あるいはその両方だろう。

なにより、当の竹中本人がこう言って笑う。「2004年以降はフロントマンとしてのひろゆきがいてくれたおかげで、僕はブラジル社では表には出ずに済んでいますからね。『御簾の向こう側にいる人』とか『黒幕』と呼ばれたことさえあります」

このコメントに出てくる「ひろゆき」とは、巨大匿名掲示板群「2ちゃんねる」の開設者として知られる西村博之のこと。1999年に誕生して急成長した2ちゃんねるにおいて、蓄積されたデータの検索に困っていると西村から聞いた竹中は、検索エンジンの開発と展開のため、西村と共同で「未来検索ブラジル」という会社を立ち上げた。

その後、2ちゃんねるの検索を有料化するために電子通貨「モリタポ」を開発したのも竹中だし、日本の動画共有サービスの草分け「ニコニコ動画」を提供するニワンゴ(後にドワンゴに吸収)でも西村らとともに取締役として技術・事業を開拓したのも竹中だった。

もっとも、竹中は単なる2ちゃんねるの“中の人”ではないし、2ちゃんねるで世に出た人でもない。

20代だった1990年代からプログラマーとして頭角を表し、macOSの原型となったNeXTSTEP(主導者はアップル追放時代の故スティーブ・ジョブス)の日本語対応やアプリ開発に取り組んだほか、90年代後半には坂本龍一や村上龍のデジタル分野に関わる表現活動もサポート。村上の長篇小説『希望の国のエクソダス』の主人公「ポンちゃん」の相当部分は竹中がモチーフだとされている。

音楽や出版という既存のメディアとの関わりの深さは、竹中の特徴のひとつだ。音楽の分野では2000年にはMAAという団体を坂本らと設立し、ムーンライダースの協力を得て技術者視点で当時のmp3エンコーダの音質比較実験を行い、著作権管理事業に競争原理を導入できるよう著作権法を書き換える支援をした。その4年後には配信と音楽関連SNSを手がけるレコミュニ(現OTOTOY)を設立。

その後、タワーレコードの取締役兼グループCTOも務め、サブスクリプションモデルのはしりであるNapster Japanの立ち上げに尽力した。出版分野では07年に誰でもウェブ上で本を作り、売り、読むことができるサービス「BCCKS(ブックス)」をスタート。2000年には(現在は業務用の)テレビ番組全録機SPIDERおよびサービスを提供するPTPを創業、放送の世界ではNHK BSの「デジタル・スタジアム」(2002〜09年)でキュレーターを務めるなど、テレビの世界とも縁が深い。

次ページ > 「自身の事業の拡大は必ずしも重要ではない」

文=岡田浩之 写真=柴崎まどか

ForbesBrandVoice

人気記事