シアトルイノベーションツアー

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時価総額世界トップ、株価1770ドル超、2018年度売上げ23兆円、昨対成長率30%。Eコマースの雄であることはむろん、今やクラウドサービスの傑物でもあるアマゾンの勢いは、実にとどまるところを知らない。

だが「そもそも」、彼らの超大躍進の本質は何なのか? アマゾン ジャパン立ち上げメンバーの一人である筆者は以下のように分析する。


株価暴落「5.5ドル」の辛酸から「1770ドル超」へ──

起業からおよそ24年。シアトルで産声を上げたその企業は、歴史上でも稀にみるスピードで世界的企業の仲間入りを遂げ、なおも進化し続けている。創業者ジェフ・ベゾスによって作られたその企業の名は、グーグル、アップル、フェイスブックと共に「GAFA」と呼ばれる世界的なインターネットテクノロジー企業の1席を占め、起業以来、地球上の多くの人々の生活を大きく変えてきた。

近年では創業当初からのネット通販のみならず、「クラウドサービスの雄」としても多くの企業や団体にそのサービスを提供する企業となっていることは周知の通りだ。その企業価値は2018年には1兆ドル(100兆円)を超え、時価総額世界一となった。

その会社が、実は2000年から2001年にかけて「Amazon.bomb(アマゾン爆弾=爆発(倒産)寸前)」や「Amazon.gov(government=政府のように赤字を垂れ流す)」と揶揄されていたことを知っている人は、それほど多くないだろう。1997年上場時、100ドルを超えた株価も5.5ドルまで下落し、いつ「Chapter 11(連邦倒産法第11章、日本でいう民事再生法)」になってもおかしくない状況だったのだ。

だがアマゾンはそこから奇跡的とも思える成長を遂げ、2019年12月現在株価は1770ドルを超え、2018年度の売り上げ規模も23兆円、昨対成長率30%という驚異的な企業へと変貌を遂げたのである。

「アマゾン・エフェクト」は破壊の始まりか

世間ではアマゾンが全ての産業構造を変えてしまうのではないか、全ての産業を巻き込んで破壊しつくしてしまうのではないか、といった悲観論まで聞こえてくる昨今である。

確かに多くの顧客がリアル店舗からネットへとその購買の場を移し、その結果、多くの小売店が影響を受けている。小さなところでいうと、シアトルダウンタウンの夕方の帰宅ラッシュも、毎年成長を続けるアマゾンの社員によるものであり、シアトル住民たちはそれを少し皮肉を込めて、「アマゾン・エフェクト(Amazon Effect)」と呼んだりもする。

米国シアトルのダウンタウンにあるアマゾン本社(Day Oneビルディングと、植物園型ワークスペース「ザ・スフィアズ」)
シアトルのダウンタウンにあるアマゾン本社「Day One」ビルディングと、植物園型ワークスペース「ザ・スフィアズ」(Shutterstock.com)

しかしこの「破壊者」の姿は本当のアマゾンの姿なのだろうか? それを推し量るには、事業を行う上でアマゾンが何を信じ、何を自らの使命としているのかを、ひも解かなければならないと思う。

アマゾンには全世界70万人超の社員がマントラのように唱える言葉がある。それは、アマゾンの世界的なビジョンである、以下のステートメントだ。

1. 地球上で最も豊富な品揃え:オンライン上で求められるあらゆるものを探し、発見でき、購入できる場を創ること

2. 地球上で最もお客様を大切にする企業であること:お客様からスタートし、常にお客様の立場で考えること

アマゾンが後世に示す「お手本」とは──

このステートメントは、社内ではそれぞれ「1. Selection(品揃え)」と「2. Customer Experience(カスタマー・エクスペリエンス)」という言葉に省略され、日常的に使われている。恐らくこの2つの言葉はアマゾン社内で最も使われている言葉だ。

とくに「Customer Experience」=「顧客体験を最大化させる」というミッションはアマゾン社員にとって最も重要かつ必要不可欠な命題であり、まさにこれこそがアマゾンを強くしている根源に違いない。


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数年前、ジェフ・ベゾスが日本を訪れ、その際に行った「全社員会議(All hands Meeting)」で語った思いは、今でも筆者の心に深く刻み込まれている。

とある社員が「アマゾンは10年後どうなっているか、考えをお聞かせください」と質問したのだ。その質問にベゾスは静かに、然しながら力強くこう答えた。

「今あるリテールのビジネス、それからクラウド、そしてデジタルのビジネスは、10年後も変わらずアマゾンの大きな事業の柱として存続しているだろう。ただ、私が思い描く10年後はそれだけではないんだ。

10年後には、アマゾンが創業以来進めてきた『顧客中心の考え方』がアマゾン以外の多くの場所でも認識され、受け入れられ、導入されているだろうと思う。例えば病院や学校や、公官庁などでもね。10年後は、『お客様を大切にする』ことで事業を発展させる『お手本』を、アマゾンが見せることが出来ているはずなんだ」

アマゾンの中で最も強く顧客中心の考え方を持つのは、ほかならぬ創業者のジェフ・ベゾスだ。そのベゾスが、「顧客中心の考え方や行動こそがアマゾンを成功と成長に導く」と強く、本気で信じているのである。そしてこれこそがアマゾンの本当の強みだ。

「誰も座らない椅子」

──実はアマゾン本社の会議室にはかつて、「ある人物」のために確保された、「誰も座らない椅子」があった。

会議の際はベゾスを始め、執行役員や各セクションの責任者がそれぞれの椅子に座る。

だが、どんな会議の時でも、その椅子は最初から最後まで「空席」なのだ。

その「もの言わぬ椅子」に座る人物こそ、会議で最も重要な人物、アマゾンがもっとも意見を聞きたいキーマンなのである。

そのキーマンとは、ほかならぬ「顧客」。これが、創業以来変わらないアマゾンの静かな慣習だ。

「破壊者」か、「エヴァンジェリスト」か

確かに産業界全体から見れば、「破壊者」というアマゾンの定義もうなずける。だが、視点を転じて顧客目線で考えたときにどうだろう?

顧客にアマゾンの印象を聞くと「価格が安い」、「品揃えが豊富」、「すぐ届く」、「使いやすい」などが出てくるはずだ。これは裏返してみると、既存のリテールプレーヤーの価格が高く、品揃えは貧弱で、入手まで待たされ、サイトの使い勝手も悪かったということなのではないだろうか。

既存のビジネスが顧客のニーズを満たせていなかった、その間隙を縫って参入したのがアマゾンだ。

つまり、今の強大なアマゾンを作り上げたのは顧客なのだ。エキセントリックなほどの「顧客への視点」を失わない限り、アマゾンの既存ビジネスへの挑戦は終わらないのである。創業以来、1ミリも変わらない顧客へのこだわり。これこそが、他社とアマゾンと「非・アマゾン」を大きく隔て分ける因子だ。

──ベゾスは、社員表彰の際に渡す小さな机(ドアデスク)のレプリカに、自らこう記している。

「Customers rule!(決めるのは顧客だ!)」。

編集=石井節子

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