抗がん剤で無効化したワクチンの再接種助成をどう叶えるか

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しかし、一筋縄ではいかなかった。具体的には、自分の住む市町村が再接種助成を行なっているのか否かを調査し、さらには大阪府全域の市町村がどの程度助成を行なっているのかを、がんの子どもの患者会と手分けをして、電話調査をした。

結果、府の方針により骨髄移植と造血幹移植は助成の対象になりつつあるが、多くの自治体で抗がん剤治療によるものまでは、ほとんどの市町村でフォローされていない現状が把握できた(2018年調査時は、助成の対象としているのは枚方市のみ)。

その調査や、他府県での動きも踏まえ、2018年8月、がんの子どもの患者会を通じて、接種済みワクチン再接種費用助成の要望書を、厚生労働大臣及び全国の都道府県知事宛に提出した。すると、厚労省は初めて再予防接種助成する自治体の調査を行い「今後、法改正の必要性や制度のあり方について、厚生科学審議会で検討していく」とした。

ワクチン再接種助成は現状では不十分

そんななかで「抗がん剤単体治療で」いままで接種してきたワクチンが全部クリアされてしまった事例が私の元に報告された。その事例は、小児白血病ではあるが、初発から少し期間があいての再発だった。一般的に再発の場合、治療法の選択肢として骨髄移植が濃厚になる。

しかしながら、寄せられた事例の場合、初発から少し時間が経っていることと、骨髄移植という治療が子どもの予後に与える影響を鑑みて、「ひとまず抗がん剤単体治療で効果を見てみましょう」という見解となったそうだ。

2回目の抗がん剤治療の際は、1回目の治療で耐性のついてしまった抗がん剤は使えない。かつ1回目よりも強い抗がん剤で治療を進めざるを得ない。当然、免疫力も初発の時に比べるとガクッと落ちる。結果、いままで受けてきたワクチンの抗体がすべて消えてしまったというわけだ。

予防接種は、適応年齢で受けるからこそ指定回数で抗体がつくことが予想されるのであって、接種する年齢を超えている場合は想定されている年齢との体格差などもあり、指定回数のみで抗体がつきにくく、何度も接種することが当然考えられる。

この事例の該当児の所属する都道府県の取り決めでは、次のようになっていた。

第1条 骨髄移植等を行った場合、定期予防接種を通じて移植前に得られていた免疫が低下若しくは消失し、感染症に罹患する頻度が高くなることから、再度予防接種を実施し、免疫を再獲得することにより、集団感染やまん延を防止し、また、被接種者の経済的負担を軽減することを目的とする。(定義)
第2条 この要綱において「骨髄移植等」とは、造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植)とする。(一部抜粋)

骨髄移植等の項目に但し書きがあり、あくまで移植に限るといった内容となり、「抗がん剤単体での治療による」事例は含まれないということだった。

さらに言えば、他市町村では「抗がん剤治療も」認められているところもあるなか、どうにも腑に落ちないと考え、該当事例の自治体に請願をあげ、助成を求めるとともに、そもそも国の施策として動いてもらえないものかと、意見書の提出をお願いした。

結果、小児がんの治療等特別な理由で抗体が失われた場合のワクチン再接種制度の整備を求める意見書を、国に対して提出することが可決された。
同様の動きを大阪府や兵庫県にも求め、大阪府に関しても同様の意見書提出が全会一致で決議された。


しかしながら、この意見書はあくまで意見を国にあげるものに過ぎず、ワクチン再接種助成は現状では不十分なままだ。
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文=石嶋瑞穂

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