そこからが高橋の行動力だ。家業では建設業を営んでいることから、インテリアデザイナーの片山正通の名は知っていたが、顔見知りではない。だが、岡山出身であることを知り、知り合いを通じてワイナリー建築の依頼を試みる。
「予算も小さく、地方で一からはじめるワイナリーです。すぐには引き受けてもらえませんでしたが、現地にはすぐに来てくれたんです。岡山出身ということでちょうど片山さんが岡山のプロジェクトを待っていたという幸運もありました」。
個人の想いは連鎖していく。同じく岡山出身の実業家ストライプインターナショナル代表の石川康晴も賛同し、資金協力とともに、自らの財団が持つアート作品の貸し出しも協力してくれた。片山正通も「いま僕が一番仕事したい人を紹介するから、2人で頼みにいきましょう」とアートディレクター平林奈緒美のところに、一緒に依頼に訪れた。その後、実際に哲多市に訪れてもらい、ロゴやラベルを作る許諾を得るにあたったという。
一歩一歩、周りに理解を進めていく地道な活動。創業から7年、2016年にリブランディングをし、domaine tettaをスタートさせる。困難な道のりにも思えるが、高橋はこの10年「ワクワクしかなかった」と語る。
醸造所内にはダグラス・ゴードンとジョナサン・モンクによるネオン管の作品「PARIS BAR」が飾られる。
醸造所の入り口に飾られたウーゴ・ロンディノーネの「the no」。ワイナリー内のアートは「ストライプインターナショナル」代表の石川康晴による公益財団法人石川文化振興財団のものだ。
途中資金調達の見込みが途絶えたり、難しい局面も訪れたが、多くの方がプロジェクトのストーリーに共感してくれて味方になってくれた。ワイナリーにはスポンサーの名が刻まれたプレートが飾られている。そこには地元企業に並び、個人の協賛者の名前が多く並ぶ。取引先には商談前後必ずワイナリーに足を運んでもらう。人と人で繋がっていくのが高橋のやり方だ。共に協業する相手にも全面の信頼を置く。
「引き受けていただいた後には、作り方は全面的にクリエーターの方にお任せをしました。片山さんにリクエストしたのは作業導線と、一番ロケーションがいい場所に建物が見えるように作って欲しいということだけ。平林さんには、できるだけ僕たちの顔を出したラベルにしてほしい、と伝えました」。
結果、すべての人が主体的に関わり、domaine tettaの表現者となっていった。高橋はワインの醸造担当にも味わいの指示はしない。あくまでも「スタッフの作ってくれるワインのファンでいたい」という高橋。決めるのは、ワインの大まかな構成まで。その後は、信頼するスタッフが造り上げるワインを楽しみながら待つというスタンスだ。
現在は2018年収穫のラインアップを揃える。シグネチャーはこの土地に捨てられていたパンダの置物をラベルのモチーフとしたシャルドネだ。