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2019.12.07 12:00

「地方創生」は綺麗事じゃない 故郷・唐津のまちづくりに込められた切実な想い

いきいき唐津 専務取締役 甲斐田晴子

いきいき唐津 専務取締役 甲斐田晴子

佐賀県北西部に位置する海沿いの街、唐津。焼き物と伝統祭「唐津くんち」で有名なこの街の商店街に10月、ホテルや映画館を含む商業施設「KARAE」ができた。
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駅には下校途中の学生が集まり、商店街では地元の高齢者が立ち話に花を咲かせる。よくある地方都市の光景の中で一際目立つこの複合施設誕生の裏には、地方創生に挑戦し続ける一人の女性の姿があった。

休学に就職、上京、留学と奔走した20代

甲斐田(かいだ)晴子。2010年に誕生した「いきいき唐津」という官民合同のまちづくり企業に参画し、現在は専務取締役を務める。唐津で生まれ育ち、国内外を転々とした後に生まれ故郷へ帰ってきた、いわゆる“Uターン”組だ。
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甲斐田がまちづくりに興味を抱いたのは、中学生時代。

「私が中学生だった頃はバブル崩壊の真っ只中で、近くの商店街が次々と潰れていきました。そんな時、家族旅行で訪れたイタリア・クレモナで衝撃的な光景を見たんです。少子高齢化が進んだ小さな街にもかかわらず、老人たちが夜な夜なお決まりのバーに集まっては歌を歌い騒いでいた。これからの時代、地方でも文化や街に誇りを持って、持続可能で幸せな暮らしができるんだと確信しました」

京都の大学へ進学した甲斐田は、まちづくりに取り組むサークルに参加。しかし、大学にはほとんど行くことなく、すぐに休学し上京。フリーター生活をしながら食いつないだ。

偶然出合った大手広告会社の営業職に就くも、あらためて学問の道へ進もうと早稲田大学政治経済学部に入学。ここで学んだ地方と都市の格差問題などの解決策を実践する目的で、「囲炉裏」という学生NPOを設立した。学生ながら地方創生にチャレンジしたが、ボランティアという形で持続的に地域と携わることがいかに難しいかを痛感したという。

その後、政治制度や地方財政などを学ぶためにフランスへ留学。帰国後には早稲田大学法科大学へ進学した。理由は、弁護士というスキルをもって、仕組みづくりから地方創生に関わりたいと考えたから。悩みながらも、目まぐるしい20代を奔走した甲斐田。それでも、故郷・唐津のまちづくりに携わる夢は日に日に強くなった。

「生まれ育った唐津でまちづくりに貢献したいという思いは消えることがありませんでした。フランスに留学した初日に見た夢も『唐津くんち』でしたから(笑)。故郷を長く離れたことで、唐津に対する客観的な視点を身につけたと同時に、これからの時代はローカルコンテンツにこそ価値があると気がついたんです」

「KARAE」の1階にあるアンテナショップ
「KARAE」の1階にあるアンテナショップ
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文・写真=角田貴広

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