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2019.12.06 18:00

私はまるで、使い捨てカイロだ。|乳がんという「転機」 #2

乳がんを経験した筆者が綴る手記(写真=小田駿一)


「基礎知識を自習しなさい」


がんかどうかの診断が確定するまでには、数々の検査を受ける必要がある。最初から手術を受ける病院で検査を受けたほうが、体の負担は少なくて済む。というのも、疑わしい部分に直接針を刺して細胞を採取するマンモトーム生検は、部分麻酔をして太い針を刺すので、麻酔そのものも、検査後に針を抜いたあとも、それなりに痛い。
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精密検査を受けた病院と、手術を受ける病院が違うと、再検査する場合が多いので、針2回、となるおそれもある。できれば1回で済ませたい。そんなこともあって、手術、治療をどの病院で受けるかを、よく考えて決める必要があるのだ。

40代後半ともなると、親友だからといって、いつも連絡を取り合うとは限らない。医師である親友のMと私も、お互い仕事と家事と育児で精一杯で、年に1回会えるかどうか、という感じだった。相手が元気で暮らせているならそれで十分だった。ただ、お互い困ったときや重たい相談事のあるときは、真っ先に連絡して、すぐに会った。

今回、Mは頻繁に連絡してくれた。やることがないと、悪いことばかり考えてしまうのを見越したかのように、落ち込みそうになるとMからのLINEが入った。まるでMが私の体の中にいて、気持ちの浮き沈みを察知してくれているようだった。
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「気を落としている時間はないよ、ゆうちゃん。標準的な治療法を頭に入れて、乳がんの場合にはマーカーが3つあり、それらが陽性か陰性かでがんの性質が違って、治療も変わってくるので、混乱しないように理解してください。HER2などと呼ばれるものです。知っていないと治療の話になった時にチンプンカンプンになっちゃいます」

マーカー? 陽性陰性? HER2? 一体何のことを言っているのか。要するに、Mは、乳がんの基礎知識を自習しなさい、とアドバイスしてくれているのだ。何かしていると不安の増殖が抑えられることもあり、私は、基礎知識を習得できる本がどれかを吟味して、アマゾンプライムで注文した。

1 『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』(日本乳癌学会、金原出版、2016年)

これは、バイブルとなった。専門的な内容をわかりやすく説明している。「たらればで今後を少しだけ予測していく」というMの教えに忠実に、自分の治療が進んでいくプロセスに沿って、少しだけ先まで読み進めるようにした。いきなり丸ごと一冊読んでしまうと、情報過多になって消化不良を起こしてしまい、あらぬ心配に悩まされることが目に見えていた。なので、少しずつ、ちょっと先まで読むように心がけた。昔から、小説も参考書も読みだすと止まらず、読み終わるまでごはんも食べず、寝ることもできないたちだったので、ちょっとずつ読むのには本当に苦労した。

『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』

2『乳がん: 治療・検査・療養 (国立がん研究センターのがんの本)』(藤原 康弘 (監修)、木下 貴之、小学館クリエイティブ、2013年)

これは自分がお世話になる病院の方針を知るために読んだ。コンパクトだが、重要なことは全部書いてあった。1と2で十分な知識を得ることができた。

乳がん 国立がん研究センター

3 南雲吉則先生の本

『大切な人をがんから守るため 今できること 命の食事』(南雲吉則、主婦の友社、2016年)

がんから守る 命の食事

『明るく前向きになれる 乳がんのお話100 (命の食事シリーズ)』(南雲吉則、主婦の友社、2016年)

乳がんのお話 命の食事

具体的にどうしたらいいかがわかるので役に立った。重要なトピックスに焦点を当てて丁寧に説明してくれるので、不安が軽減した。

WEBサイトでは、早期乳がん体験ブログをよく読んだ。入院するときに持っていくとよいものや、術後におすすめのブラなど、具体的に何をしたらよいかがわかって参考になった。著者は、とても冷静で、丁寧に情報を整理している。たとえば「気分があがる前開きパジャマ」を淡々と紹介するような、クールな雰囲気が気に入った。

親友Mは、自習を勧める一方で、「私はまだがんとは信じてないです」とも言ってくれた。家族歴なしだし、食生活に気を使っている家族だし、嗜好も特別問題なし。痩せているわけでもなければ太ってもいない。月経不順をほっとくタイプでもない。どう考えてもリスク要因がなさすぎる。

それに加えて今までカテゴリー1が突然5というのもちょっと普通じゃない。何かの間違いか、読影を厳しく読みすぎたか。ただしそうだとしても人間ドックを受けたのはちゃんとした病院だから、“なんちゃって読影医”がいる感じでもないし……と考えてしまう。実にすっきりしない経過だというのだ。

それでも「備えあれば憂いなし、杞憂で終わるのが一番!」と、最後は自習の勧めに戻った。「それに、一度引っかかったら今後がんが出なくても、検診結果はかなり慎重になるはず。その時に毎回どう理解してどう行動するか、悩むはずなのです。その時のために知識は必要! と思っています」

かくして、人間ドックの結果を知った翌日には、乳がんの勉強を始めるモードに入っていた。明日、本が届くのが楽しみだ。アマゾンプライムに加入していてよかったと、心底思った。これで年会費の元は取った。
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文=北風祐子、写真=小田駿一

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