World Restaurant Awards審査員


ザ・レヴェリー サイゴンがこのホーチミンシに持ち込んだ最高のもの。それは例えば、ヴィジオネアやコロンボスティール、ジョルジェッティなど、著名なイタリアンブランドが名を連ねるインテリアだ。


ロビーのシャンデリアはイタリアブランド、VGニュートレンドの手によるもの。色とりどりのガラスは、ベトナムの国の形をかたどっている。

12種類あるスイートはそれぞれのデザインが異なり、どれもオーナー自らが調度品を選んだという。異なった色、雰囲気のスイートは、どれもオリジナリティある魅力に溢れている。そして、素晴らしいのは、置かれているちょっとした小物まで“本物”を置いていることだ。

遠くから見て色合いや雰囲気が素晴らしくても、近くで見るとつくりの粗さに気づく、というようなことがまったくと言ってよいほどない。床の大理石はイタリア産か、美しい天然の青色を持つボリビア産。しかも、色柄の美しい部分のみを選んで作っている。手仕事による美しい柄が施されたムラノ・ガラスの花瓶など、テーブルの上の小物1つとっても、「妥協のない」という言葉がぴったりするものばかりだ。

ベルギー産の壁紙が使われた壁には、漆芸が有名なベトナムだけに、自国のアーティストによる漆絵の作品が飾られている。シャワーはドイツのグローエ、トイレは日本のTOTO。そこからは、世界の最上級のものを集める、という考え方が透けて見える。


スイートのインテリア

難民二世のシェフによる市場ツアー

そして、ユニークなのは、昔のベトナムを知ることができる、ローカルな世界に触れるツアーも開催していることだ。

例えば、世界160カ国で放送されている食の番組に出演するベトナム人スターシェフ、ルーク・グエン。現在、ホテルのそばのベトナム料理店「ベトナム・ハウス」のエグゼクティブ・シェフも務める彼がガイドとなって、庶民的な市場をめぐるツアーが、事前予約制で楽しめる。

ベトナムでは英語などの外国語を話す人がまだ少ないが、グエンは流暢な英語も話す。実は、グエンは、ベトナム人の両親を持つものの、タイの難民キャンプで生まれ、オーストラリアで育った、難民二世なのだ。


ルーク・グエン

「ということは、『ベトキュー』なのですね」、と何気なく聞くと、グエンの顔が一瞬曇った。直訳では「海外に一時滞在しているベトナム人」という意味で、否定的な意味はない。しかし、かつてその言葉は一種差別的なニュアンスを含んでいたのだと、グエンは言う。「ベトナムの地にとどまらず逃げ出した臆病者として、ベトナム人とは区別して呼ばれていた」のだと。

しかし、ここ数年、ベトキューは、海外で語学やテクノロジーなどの知識を身につけ、伝統的なベトナム社会に変革をもたらす先駆者として歓迎されている。「今は、ベトキューという言葉に、かつての否定的なニュアンスはありません。とはいえ、私はやはりベトナム人と呼ばれたいです」とグエンは語る。

そんな彼が、ローカルツアーで連れて行ってくれたのは、ホテルから徒歩15分ほどの場所にある、路地裏の小さな市場だった。地価が急上昇を続けるホーチミンの中心街に残るそのエリアは、再開発のため取り壊しが決まっている。

文・写真=仲山今日子

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